障害福祉事業所の社会保険・労働保険|加入要件と開業時の手続き

障害福祉事業所の社会保険と労働保険の加入手続を確認するイメージ

社会保険と労働保険は制度ごとに加入要件が異なり、一方に加入していないことが他方の判断根拠にはなりません。株式会社・合同会社・NPO法人などの法人事業所は健康保険・厚生年金保険が原則適用され、労災保険は労働者を1人でも雇用すれば適用されます。パート職員も、4分の3基準や短時間労働者の適用要件に当てはまれば加入対象です。

  • 法人事業所は健康保険・厚生年金保険が原則適用
  • パートでも週の所定労働時間が4分の3以上なら加入対象
  • 労災保険は労働者を1人でも雇えば適用される

この記事で分かること

社会保険と労働保険の違い/法人事業所の加入義務/パート職員の加入要件/開業時の手続と期限/加入漏れを防ぐポイント

はじめに

障害福祉事業所を開業して職員を雇うと、健康保険・厚生年金保険、雇用保険、労災保険の手続が必要です。指定申請の人員配置を満たしていても、保険加入が漏れていれば労務上の問題は残ります。

法人か個人事業か、常勤かパートか、所定労働時間や雇用見込みがどうなっているかによって、適用関係が変わります。

この記事のポイント

    • 法人事業所は、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所
    • 労災保険は、原則として労働者を1人でも雇えば適用
    • 雇用保険は、原則として週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者が対象
    • パート職員は「4分の3基準」と短時間労働者の要件を確認する
    • 開業前に労働条件を確定し、指定申請の勤務表と保険届出を一致させる

1. 社会保険・労働保険の違い

区分制度主な目的
社会保険健康保険・厚生年金保険業務外の病気・けが、出産、老齢・障害・死亡等への給付
労働保険労災保険・雇用保険業務・通勤災害、失業、育児休業等への給付

加入要件は制度ごとに異なります。「社会保険に加入していないから雇用保険にも入らない」といった一括判断はできません。

図解1社会保険と労働保険

社会保険(健康保険・厚生年金保険)

  • 業務外の病気・けが、出産、老齢・障害・死亡等への給付

労働保険(労災保険・雇用保険)

  • 業務・通勤災害、失業、育児休業等への給付
加入要件は制度ごとに異なる「社会保険に加入していないから雇用保険にも入らない」とは限らない
※本文「1. 社会保険・労働保険の違い」を図解化したものです。

2. 健康保険・厚生年金保険

株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人、医療法人、社会福祉法人等の法人事業所は、常時使用する従業員数にかかわらず、原則として強制適用事業所です。代表者・役員も、法人から労務の対償として報酬を受ける場合は被保険者となることがあります。

常勤職員と4分の3基準

正社員等の通常の労働者は原則加入です。パート・有期契約職員でも、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所の通常の労働者の4分の3以上である場合は、原則として被保険者になります。

短時間労働者の適用

4分の3未満でも、特定適用事業所等で働き、次の要件を満たす短時間労働者は加入対象となります。

週の所定労働時間が20時間以上

所定内賃金が月額8.8万円以上

2か月を超える雇用の見込みがある

学生ではない(一定の例外あり)

令和8年8月時点では、特定適用事業所等における月額8.8万円以上の賃金要件は令和8年10月に撤廃予定です。企業規模要件も、令和9年10月の「36人以上」から段階的に縮小され、令和17年10月に撤廃される予定です。採用時点だけでなく、制度改正日と契約変更時にも確認してください。

図解2制度ごとの加入判定

健康保険・厚生年金保険

  • 法人事業所は従業員数にかかわらず原則として強制適用
  • 代表者・役員も労務の対償として報酬を受ける場合は被保険者となることがある
  • パート・有期でも4分の3基準を満たせば原則加入
  • 短時間労働者:週20時間以上/所定内賃金月額8.8万円以上/2か月を超える雇用見込み/学生でない
  • 月額8.8万円以上の賃金要件は令和8年10月に撤廃予定
  • 企業規模要件も令和9年10月の「36人以上」から段階的に縮小され、令和17年10月に撤廃予定

労災保険

  • 労働者を1人でも雇用する事業に適用(名称を問わない)
  • 保険料は全額事業主負担
  • 通勤災害も対象となり得る

雇用保険

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる
※採用時点だけでなく、制度改正日と契約変更時にも確認してください。

3. 労災保険

労災保険は、原則として労働者を1人でも雇用する事業に適用されます。正社員、パート、アルバイト、短時間職員等の名称にかかわりません。

保険料は全額事業主負担です。送迎、訪問支援、利用者対応中の事故だけでなく、通勤災害も対象となり得ます。業務委託と呼んでいても、実態が労働者であれば適用関係が問題になります。

4. 雇用保険

原則として、次の両方を満たす労働者は雇用保険の対象です。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる

昼間学生など適用除外となる場合があります。複数事業所で働く職員については、原則として主たる賃金を受ける一つの事業所で加入しますが、一定の高年齢者には複数事業所の時間を合算する特例があります。

図解3開業時の手続と期限

年金事務所等

  • 新規適用届:事実発生から5日以内
  • 被保険者資格取得届:事実発生から5日以内

労働基準監督署・労働局等

  • 労働保険 保険関係成立届:保険関係成立日の翌日から10日以内
  • 労働保険 概算保険料申告書:保険関係成立日の翌日から50日以内

ハローワーク

  • 雇用保険 適用事業所設置届:設置日の翌日から10日以内
  • 雇用保険 被保険者資格取得届:資格取得日の属する月の翌月10日まで
法人設立日、賃貸借契約日、採用日、指定日が異なる場合、どの日に保険関係が成立したかを整理する
※電子申請、添付書類、管轄は事業所の所在地等により確認します。
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5. 開業時の主な手続と期限

手続主な提出先原則的な期限
健康保険・厚生年金保険 新規適用届年金事務所等事実発生から5日以内
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届年金事務所等事実発生から5日以内
労働保険 保険関係成立届労働基準監督署保険関係成立日の翌日から10日以内
労働保険 概算保険料申告書労働基準監督署・労働局等保険関係成立日の翌日から50日以内
雇用保険 適用事業所設置届ハローワーク設置日の翌日から10日以内
雇用保険 被保険者資格取得届ハローワーク資格取得日の属する月の翌月10日まで

電子申請、添付書類、管轄は事業所の所在地等により確認します。法人設立日、賃貸借契約日、採用日、指定日が異なる場合、どの日に保険関係が成立したかを整理してください。

図解4開業準備の進め方
法人・事業所の設立時期と職員の採用日を決める
雇用契約書で勤務日、勤務時間、賃金、雇用期間を確定する
職員ごとに各保険の加入要件を判定する
社会保険・労働保険の事業所手続/職員の資格取得手続
指定申請の勤務形態一覧表と雇用・保険関係書類を照合する
給与計算、保険料控除、年度更新、算定基礎届等の年間スケジュールを作る採用日、産休・育休の開始日、退職日は同じ台帳で管理する
※人員配置の書類と保険の届出で日付がずれないようにしてください。

6. 開業準備の進め方

  • 法人・事業所の設立時期と職員の採用日を決める
  • 雇用契約書で勤務日、勤務時間、賃金、雇用期間を確定する
  • 職員ごとに各保険の加入要件を判定する
  • 社会保険・労働保険の事業所手続を行う
  • 職員の資格取得手続を行う
  • 給与計算、保険料控除、年度更新、算定基礎届等の年間スケジュールを作る
  • 指定申請の勤務形態一覧表と雇用・保険関係書類を照合する

勤務形態一覧表は、雇用契約や保険関係の書類と突き合わせて作成します。ある中核市の手引きでは、次の取扱いが示されています。

  • 常勤の従業者が月途中で入職・退職した場合、在職期間中は「常勤」として取り扱ってよいものの、常勤換算では実際の勤務時間数に応じて非常勤と同様に算定します。
  • 産休・育休・病休などで暦月1か月以上勤務しない者は常勤換算に含められませんが、勤務時間数を「0」として氏名を記載し、運営規程等の員数に含めることは可能です。
  • 法人として常勤で雇用していても、他の事業所と兼任しているため一覧表上「非常勤」となっている従業者が有給休暇を取得した場合、その時間を常勤換算に算入することはできません。

採用日、産休・育休の開始日、退職日は、社会保険の資格取得・喪失や保険料免除の手続と直結します。人員配置の書類と保険の届出で日付がずれないよう、同じ台帳で管理してください。取扱いは指定権者によって異なるため、申請先の最新の手引きを確認してください。

7. 指定基準の「常勤」と社会保険の加入判定は別の物差しです

開業準備で混乱しやすいのが、指定基準上の「常勤」と、社会保険・雇用保険の加入判定の関係です。両者は別の制度であり、判定の物差しが異なります。

区分判定の基準
指定基準上の「常勤」事業所における勤務時間が、就業規則などで定められている常勤の従業者が勤務すべき時間数に達していること。1週間に勤務すべき時間数が32時間を下回る場合は32時間を基本とします。雇用契約における正規職員か非正規職員かは問いません。
指定基準上の「専従」原則として、サービス提供時間帯を通じて障害福祉サービス等以外の職務に従事しないこと。常勤・非常勤の別は問いません。
健康保険・厚生年金保険通常の労働者の4分の3基準、または短時間労働者の要件(週20時間以上等)で個別に判定します。
雇用保険週の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みで判定します。

ある中核市が発行した指定申請の手引きでも、常勤の取扱いについて雇用契約上の正規職員であるかどうかは問わないと明記されています。「パートだから常勤にはできない」「常勤として届け出たから当然に社会保険へ加入する」といった一括判断はできません。所定労働時間を雇用契約書で確定し、制度ごとに判定してください。

なお、育児・介護休業法の所定労働時間の短縮措置等の対象者について、常勤の従業者が勤務すべき時間数を30時間としているときは、30時間勤務することで指定基準上の常勤として取り扱ってよいとされています。

図解5指定基準の「常勤」と社会保険の加入判定は別

指定基準上の「常勤」

  • 就業規則などで定められている常勤の従業者が勤務すべき時間数に達しているか
  • 週32時間を下回る場合は32時間を基本
  • 雇用契約上の正規職員か非正規職員かは問わない

社会保険・雇用保険の加入判定

  • 4分の3基準や短時間労働者の要件で判定

できない一括判断

  • 「パートだから常勤にはできない」
  • 「常勤として届け出たから当然に社会保険へ加入する」
所定労働時間を雇用契約書で確定し、制度ごとに判定する育児・介護休業法の短縮措置対象者は、勤務すべき時間数を30時間としているとき30時間勤務で常勤として取り扱ってよい
※本文「7. 指定基準の「常勤」と社会保険の加入判定は別の物差しです」を図解化したものです。

8. よくある誤り

  • 指定日まで給与が発生しないとして、開設準備中の労働を無給にする
  • 法人代表者や役員は一律に社会保険対象外と考える
  • パート職員は一律に社会保険・雇用保険対象外と考える
  • 契約上は週20時間未満だが、恒常的な追加勤務を反映しない
  • 複数事業所の兼務者について資格取得・賃金計上を重複させる
  • 労災保険と雇用保険の成立・設置手続を混同する
  • 採用後に加入要件を確認し、届出が遅れる

9. 開業日から逆算する|指定日と採用日のずれに注意

保険関係の成立日は、法人設立日、賃貸借契約日、採用日、指定日のどれとも一致しないことがあります。指定申請のスケジュールを押さえたうえで、採用日を決めてください。

ある中核市の手引きでは、指定を毎月1日付けとしたうえで、指定の3か月前の15日までに事前協議、2か月前の7日までに申請書類の1回目提出、2か月前の末日までに最終提出です。そのうえで、指定前月の中旬から下旬に現地確認という標準的なスケジュールが示されています。現地確認までに備品の搬入や運営規程・勤務形態一覧表・重要事項説明の掲示を完了しておくことも求められます。

この日程では、指定日より前に職員を採用し、開設準備に従事してもらう必要が生じます。準備期間の労働も労働時間であり、賃金の支払と保険の適用対象になり得ます。「指定日まで給与が発生しない」という前提で計画を組まないでください。

また、同手引きでは、指定後の事後調査等で書類の不備により過大に報酬を請求していたことが判明した場合、理由を問わず返還が必要であるとされています。また、申請・届出を行政書士等へ委託する場合でも、事業所の管理者・従業者が指定基準等の内容を必ず理解しておくことが求められています。

事前協議の時期、提出期限、現地確認の運用は指定権者によって異なるため、申請先の最新の手引きを確認してください。

図解6よくある誤り

開設準備・判定

  • 指定日まで給与が発生しないとして、開設準備中の労働を無給にする
  • 法人代表者や役員は一律に社会保険対象外と考える
  • パート職員は一律に社会保険・雇用保険対象外と考える

契約と実態・届出

  • 契約上は週20時間未満だが、恒常的な追加勤務を反映しない
  • 複数事業所の兼務者について資格取得・賃金計上を重複させる
  • 労災保険と雇用保険の成立・設置手続を混同する
  • 採用後に加入要件を確認し、届出が遅れる
指定日より前に職員を採用し開設準備に従事してもらう必要が生じる。準備期間の労働も労働時間であり、賃金の支払と保険の適用対象になり得る
※本文「8. よくある誤り」「9. 開業日から逆算する」を整理したものです。
あわせて読みたい障害福祉事業所に必要な就業規則|作成義務と整備すべき内容

よくある質問

Q
パート職員は社会保険に入らなくてもよいですか?
A

一律には判断できません。通常の労働者の4分の3以上であれば原則加入し、4分の3未満でも、企業規模、週所定労働時間、雇用見込み、学生要件等を満たせば加入対象になります。

Q
雇用保険と社会保険は同じ基準で判定しますか?
A

別の制度なので基準も異なります。雇用保険は原則として週20時間以上かつ31日以上の雇用見込み、健康保険・厚生年金は4分の3基準又は短時間労働者の要件で個別に判定します。

あわせて読みたい社会保険労務士業務(サービス案内)

まとめ

障害福祉事業所では、法人であること、職員の所定労働時間、所定労働日数、賃金、雇用見込み等を基に、保険ごとに加入要件を判断します。指定申請の人員配置を作る段階で労働条件を確定し、開業日・採用日に合わせて届出を進めることが重要です。

保険加入は一度判定すれば終わりではありません。契約時間、賃金、企業規模、法改正等の変化に応じて定期的に見直してください。

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体系的に知りたい方はこちら障害福祉の労務管理 完全ガイド|規程の整備から社会保険手続きまでの全体像

主な参考資料

  • 日本年金機構「適用事業所と被保険者」 (出典)
  • 日本年金機構「短時間労働者の適用拡大」 (出典)
  • 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」 (出典)
  • 厚生労働省「労働保険の成立手続」 (出典)

※本記事は令和8年8月24日時点の情報に基づいています。加入要件・期限は個別事情と最新の制度をご確認ください。 

執筆者 永野将太(行政書士・社会保険労務士)
執筆者WRITER
永野 将太
行政書士法人 障害福祉リーガルパートナーズ 代表

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。

これまで5,000件を超える相談に対応。法令・通知・行政実務を踏まえながら、制度上の正しさだけでなく、実際の事業所運営まで見据えた実務的な情報発信を行っています。