二以上事業所勤務届|複数の事業所に勤務する役員・職員の社会保険手続き

二以上事業所勤務届のアイキャッチ

二以上事業所勤務届は、被保険者が同時に2か所以上の適用事業所に勤務する場合に提出します。どちらか一方だけ加入するための手続きではなく、両方の事業所で加入したうえで、保険者や年金事務所を選択するものです。標準報酬月額は各事業所の報酬月額を合算して決定し、保険料は報酬額に応じて按分します。

  • 提出期限は事実発生から10日以内
  • 標準報酬月額は両方の報酬を合算して決定する
  • 加入するかどうかの判定は事業所ごとに行う

この記事で分かること

同時に2か所以上の事業所に勤務する役員・職員について提出する「被保険者所属選択/二以上事業所勤務届」の実務を整理します。届出が必要になる場面、10日以内という提出期限と提出先、事業所(保険者)の選び方、報酬月額を合算した標準報酬月額の決定と保険料の按分、加入判定を事業所ごとに行う理由、70歳以上の場合の届書、記入・添付でつまずきやすい点までを解説します。

はじめに

障害福祉の分野では、就労継続支援と共同生活援助を別法人で運営している、代表者が複数の法人から役員報酬を受けている、サービス管理責任者が2つの法人に籍を置いているといった形が珍しくありません。こうした場合、社会保険は「どちらか一方だけ加入すればよい」わけではなく、それぞれの事業所で被保険者資格が発生します。

そのうえで、被保険者本人が主たる事業所を選び、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択/二以上事業所勤務届」(以下「二以上事業所勤務届」)を提出します。届出をしないままにすると、保険料が一方の報酬だけで計算された状態が続き、後から遡って保険料を納めることになります。

この記事では、日本年金機構が公表している手続き案内・リーフレット・記入例をもとに、二以上事業所勤務届の実務を整理します。

この記事のポイント

  • 提出時期は事実発生から10日以内。届出を行うのは事業主ではなく被保険者本人です。
  • 提出先は選択した事業所の所在地を管轄する事務センターまたは年金事務所。電子申請・郵送・窓口持参から選べます。
  • 標準報酬月額はそれぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した額で決定され、保険料はその額をもとに各事業所の報酬月額で按分されます。
  • 加入するかどうかの判定は事業所ごとに行い、2か所の労働時間や賃金を合算することはしません。
  • 前提として、それぞれの事業所で被保険者資格取得届の提出が必要です。
  • 70歳以上の従業員は「厚生年金保険 70歳以上被用者所属選択/二以上事業所勤務届」を使います。

1. 二以上事業所勤務届が必要になる場面

二以上事業所勤務届は、被保険者が同時に複数(2か所以上)の適用事業所に使用される場合に提出します。日本年金機構は、具体例として次のような形を挙げています。

  • A社およびB社で法人の代表者である場合
  • A社で法人の代表者であり、かつB社で正社員として勤務する場合
  • A社およびB社で正社員として勤務する場合
  • 短時間労働者として、A社・B社の両方で加入要件を満たす場合

障害福祉の事業所では、就労系サービスの法人とグループホームの法人を分けて設立し、代表者が両方から役員報酬を受け取っているケースが典型です。役員報酬が少額であっても、その法人の適用事業所に使用される関係があれば被保険者となるため、届出の対象になります。

図解1届出が必要になる典型パターン

複数法人の代表者

  • 就労系サービスの法人とグループホームの法人を分けている
  • 両方から役員報酬を受けている

代表者+別法人の職員

  • A法人の代表者であり、B法人では常勤職員として勤務

2法人で勤務する職員

  • サービス管理責任者・世話人などが2法人に籍を置く
  • それぞれで加入要件を満たしている
同一法人内で本社と事業所が別々の適用事業所になっている場合も対象一括適用により1つの適用事業所となっている場合は対象外
※国・地方公共団体の短時間勤務職員で共済組合の適用を受ける場合は、国等の事業所を選択する必要があります。

2. 提出期限・提出者・提出先

提出期限は事実発生から10日以内です。資格取得届の5日以内とは期限が異なる点に注意してください。届出を行うのは事業主ではなく被保険者本人ですが、実務上は事業所が用紙を用意し、本人の記名を得て提出する流れが一般的です。

提出先は、選択した事業所の所在地を管轄する事務センター(または管轄の年金事務所)です。提出方法は電子申請・郵送・窓口持参から選べます。健康保険の保険者が2つ以上あり、健康保険組合を選択する場合は、事務センター等に加えて、その健康保険組合にも届出が必要です。

図解2届出から保険料が確定するまでの流れ
①各事業所で資格取得届それぞれの事業所が5日以内に被保険者資格取得届を提出
②本人が事業所を選択主たる事業所を選び、10日以内に二以上事業所勤務届を提出
③合算して標準報酬月額を決定選択事業所を管轄する事務センターが処理
④按分後の保険料を各事業所が納付各事業所が自社分を控除・納付
提出期限は事実発生から10日以内提出するのは事業主ではなく被保険者本人健康保険組合を選択する場合は健保組合にも提出
※資格取得届が提出されていることが前提です。届出の順序を誤ると返戻の原因になります。
あわせて読みたい健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届|提出期限と記入の注意点

3. 事業所(保険者)を選ぶという意味

この届出は「どちらか一方だけ加入する」ための手続きではありません。両方の事業所で被保険者であることを前提に、事務処理と医療給付を担当する保険者を1つに決めるための届出です。選択によって次の点が決まります。

  • 医療給付を受ける保険者(協会けんぽか、健康保険組合か)
  • 適用される健康保険料率
  • 事務処理を担当する事務センター(選択した事業所の所在地を管轄するもの)

協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに異なるため、静岡県の事業所と神奈川県の事業所のどちらを選ぶかで料率が変わります。また、共済組合と他の保険者のいずれかを選ぶ場合は、共済組合を選択する必要があります。

図解3選択で決まること・決まらないこと

選択で決まること

  • 医療給付を受ける保険者
  • 適用される健康保険料率
  • 事務処理を行う事務センター
  • 被保険者証等が交付される先

選択しても変わらないこと

  • 非選択事業所でも被保険者であること
  • 非選択事業所にも保険料の負担・納付義務があること
  • 非選択事業所での資格取得届・賞与支払届などの提出義務
※「選ばなかった側は手続きが不要になる」という誤解が最も多い点です。

4. 標準報酬月額の決定と保険料の按分

標準報酬月額は、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により決定されます。保険料は、決定した標準報酬月額による保険料額を、それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づいて按分して決まります。

日本年金機構のリーフレットでは、A事業所20万円・B事業所10万円(合算30万円)の例が示されています。厚生年金保険料率18.3%で計算すると被保険者負担分は合計27,450円となり、これを報酬月額の比で按分して、A事業所18,300円・B事業所9,150円となります。事業主負担分も同じ比率で各事業所が負担します。

図解4合算と按分のイメージ(報酬月額20万円+10万円の場合)
A事業所の報酬月額
200,000円
B事業所の報酬月額
100,000円
合算した報酬月額
300,000円
A事業所で控除する保険料(本人分)
18,300円
B事業所で控除する保険料(本人分)
9,150円
厚生年金保険料率18.3%・労使折半で計算した例健康保険料は選択した保険者の料率で計算
※日本年金機構のリーフレットに示された計算例をもとにした整理です。実際の額は標準報酬月額の等級と保険者の料率により決まります。

給与計算では、自社で支払う報酬だけを見て保険料を計算すると誤りになります。年金事務所から通知される按分後の保険料額を、各事業所の給与計算に反映させる運用が必要です。

5. 加入判定は事業所ごとに行う

保険料は合算して計算しますが、加入するかどうかの判定は合算しません。日本年金機構の適用拡大Q&A集では、被保険者資格の取得要件を満たすかどうかは各事業所単位で判定し、2か所以上の事業所における所定内賃金や労働時間を合算しないことが示されています。

つまり、A事業所で週15時間・B事業所で週15時間勤務している場合、合計30時間であっても、それぞれの事業所で加入要件を満たさなければ被保険者にはならず、二以上事業所勤務届も不要です。逆に、両方で要件を満たしたときに初めて届出が必要です。

図解5合算するもの・合算しないもの

合算する

  • 標準報酬月額を決めるための報酬月額
  • 保険料の計算(按分のもとになる額)

合算しない

  • 週の所定労働時間(4分の3基準・週20時間の判定)
  • 所定内賃金月額8.8万円の判定
特定適用事業所に該当するかは、その事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数で判断する
※加入判定の詳細は、被保険者資格取得届の記事で整理しています。
あわせて読みたい障害福祉事業所の社会保険・労働保険|加入要件と開業時の手続

6. 算定基礎届・月額変更届・賞与支払届の取扱い

二以上事業所勤務届を提出した後も、算定基礎届・月額変更届・賞与支払届は、選択事業所・非選択事業所のそれぞれから提出します。提出された報酬を合算して標準報酬月額・標準賞与額が決定され、保険料が按分される仕組みです。

賞与支払届には「二以上勤務」の欄があり、被保険者(70歳以上被用者)が2か所以上の適用事業所で勤務している場合は○で囲んで提出します。標準賞与額は1,000円未満を切り捨てた額に保険料率を乗じて計算し、上限は健康保険が年度の累計額573万円、厚生年金保険が1か月あたり150万円です。

あわせて読みたい賞与支払届の提出期限と標準賞与額の上限|賞与不支給報告書も解説

7. 70歳以上の従業員の場合

70歳以上の人は厚生年金保険の被保険者にはなりませんが、在職老齢年金の計算に用いるため、70歳以上被用者としての届出が必要です。同時に2か所以上の適用事業所に使用される場合は「厚生年金保険 70歳以上被用者所属選択/二以上事業所勤務届」を、事実発生から10日以内に、選択した事業所の所在地を管轄する事務センターまたは年金事務所へ提出します。

なお、70歳以上でも75歳未満であれば健康保険の被保険者であるため、健康保険についての「被保険者所属選択/二以上事業所勤務届」も別途必要です。障害福祉の事業所では、開設時から関わっている役員が70歳を迎える場面で問題になりやすい点です。

8. 記入・添付書類でつまずきやすい点

届書には、選択する事業所と選択しない事業所の両方について、事業所整理記号・被保険者整理番号・名称・所在地を記入します。厚生年金基金に加入している場合は基金の名称と番号も記入します。報酬月額は、それぞれの事業所で受ける額を記入し、食事・住宅・通勤定期券などの現物給与は、厚生労働大臣が定める価額に基づいて通貨に換算します。

日本年金機構は、個人番号を記入して郵送で提出する際に確認書類が添付されていない事例が多いことを公表しています。窓口ではマイナンバーカードを提示し、郵送ではマイナンバーカードの表裏のコピー、またはマイナンバーが記載された住民票の写しと運転免許証などのコピーを添付します。不備がある場合は届書が返戻されます。

図解6返戻・記入誤りを防ぐチェックポイント

マイナンバーの確認書類

  • 郵送時は番号確認書類と身元確認書類の添付が必要
  • 添付漏れは返戻の代表例

整理記号・整理番号

  • 選択・非選択の両方について記入する
  • 資格取得届の提出前だと番号が確定しない

報酬月額

  • 現物給与は厚生労働大臣が定める価額で換算
  • 役員報酬も報酬月額に含めて記入
※資格確認書・高齢受給者証・特定疾病療養受療証・限度額適用認定証が交付されている場合は、届書に添えて返却します。

実務上の注意点

障害福祉サービス事業所では、法人を分けて運営することが多いため、次の点を採用・役員就任のタイミングで確認しておくと、後からの遡及処理を防げます。

  • 役員就任時に確認する。新たに別法人の役員に就任し、報酬が発生した時点が「事実発生」です。登記の時期だけでなく、報酬の発生時期を確認します。
  • 人員基準の判断とは切り離す。二以上事業所勤務届は社会保険の手続きであり、常勤換算や専従・兼務の判断とは別の制度です。届出をしたことで人員基準を満たすことにはなりません。
  • 処遇改善加算の記録と混同しない。按分後の保険料は各法人の法定福利費として計上されます。賃金改善の実績報告では、どの法人からの支払いかを整理して記録します。
  • 雇用保険・労災保険は別の取扱い。健康保険・厚生年金保険の届出とは制度が異なるため、それぞれの取扱いを個別に確認します。
あわせて読みたい算定基礎届(定時決定)の実務|支払基礎日数の考え方と提出期限

実務チェックリスト

□ それぞれの事業所で被保険者資格取得届を提出した

□ 各事業所で加入要件を満たすかを、事業所ごとに判定した

□ 主たる事業所(保険者)を本人と確認して決めた

□ 事実発生から10日以内に二以上事業所勤務届を提出した

□ 健康保険組合を選択する場合、健保組合にも届出をした

□ マイナンバーを記入し、確認書類を添付した

□ 選択・非選択の両事業所の整理記号・整理番号を記入した

□ 按分後の保険料額を各事業所の給与計算に反映させた

□ 70歳以上の場合、70歳以上被用者の届書を使用した

よくある質問

Q
同じ法人の中で2つの事業所に勤務している場合も届出が必要ですか。
A

判断の単位は法人ではなく適用事業所です。本社と事業所がそれぞれ適用事業所となっている場合は届出の対象になります。一括適用などにより1つの適用事業所として扱われている場合は、二以上事業所勤務には当たりません。

Q
役員報酬が少額でも届出は必要ですか。
A

それぞれの事業所で被保険者となる場合は、報酬額の多寡にかかわらず届出が必要です。合算した報酬月額により標準報酬月額が決定され、保険料は各事業所の報酬月額に応じて按分されます。

Q
どちらの事業所を選択すればよいですか。
A

選択するのは被保険者本人です。選択した事業所の保険者から医療給付を受け、その保険者の健康保険料率が適用され、事務処理はその事業所を管轄する事務センターが行います。協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに異なります。共済組合と他の保険者のいずれかを選ぶ場合は、共済組合を選択する必要があります。

Q
届出が遅れるとどうなりますか。
A

届出が遅れても、事実が発生した日にさかのぼって報酬月額を合算した標準報酬月額が決定されます。その結果、それまで一方の報酬だけで計算していた保険料との差額を精算することになり、事業所と本人の双方に想定外の負担が生じます。

Q
選択しなかった事業所は保険料を控除しなくてよいのですか。
A

選択しなかった事業所も被保険者を使用している事業所であることに変わりはなく、按分された保険料を給与から控除し、事業主負担分とあわせて納付します。届出をしたことで一方の事業所の義務がなくなるわけではありません。

Q
2か所で週15時間ずつ勤務する職員は加入対象になりますか。
A

被保険者資格の取得要件を満たすかどうかは各事業所単位で判定し、2か所以上の事業所における所定内賃金や労働時間を合算することはしません。それぞれの事業所で要件を満たさなければ被保険者とならず、二以上事業所勤務届も不要です。

Q
二以上事業所勤務届を提出すれば、人員基準の常勤要件も満たせますか。
A

別の制度です。二以上事業所勤務届は社会保険の適用に関する手続きであり、指定基準における常勤・専従の判断は勤務時間や勤務実態によって指定権者が判断します。届出の有無で人員基準の充足が決まるものではありません。

まとめ

二以上事業所勤務届は、複数の法人で事業を展開する障害福祉の事業者にとって、見落とされやすい一方で影響の大きい手続きです。実務のポイントは、期限が事実発生から10日以内であること、届出をするのは本人であること、報酬は合算し加入判定は合算しないこと、そして選択しなかった事業所にも保険料の負担と届出の義務が残ることの4点です。

法人を新設して代表者が兼務する場面、他法人のサービス管理責任者を迎える場面など、事業所側が最初に気づける機会は多くあります。役員就任や採用の手続きの中に、二以上事業所勤務届の要否を確認する手順を組み込んでおくことが、遡及した保険料の負担を防ぐ最も確実な方法です。

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体系的に知りたい方はこちら障害福祉の労務管理 完全ガイド|規程の整備から社会保険手続きまでの全体像

主な参考資料

  • 参考:日本年金機構「2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき」
  • 参考:日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」
  • 参考:日本年金機構「2-6:70歳以上の従業員が複数の適用事業所に使用されることになったとき」
  • 参考:日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」
  • 参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」

※本記事は令和8年9月2日時点の法令・通知・日本年金機構の公表資料に基づく一般的な整理です。実際の届出にあたっては、管轄の年金事務所・事務センターまたは健康保険組合にご確認ください。

執筆者 永野将太(行政書士・社会保険労務士)
執筆者WRITER
永野 将太
行政書士法人 障害福祉リーガルパートナーズ 代表

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。

これまで5,000件を超える相談に対応。法令・通知・行政実務を踏まえながら、制度上の正しさだけでなく、実際の事業所運営まで見据えた実務的な情報発信を行っています。