処遇改善加算と法定福利費|賃金改善額に含められる範囲と計算方法

処遇改善加算における法定福利費の会社負担を計算するイメージ

法定福利費は、法律に基づいて事業主が負担する社会保険料・労働保険料です。処遇改善加算で手当や賞与を増額した場合、その増額に対応して増えた会社負担分を賃金改善額に計上できます。計上できるのはあくまで増加分で、実績報告では実際の給与・賞与と保険料の計算結果に基づくのが基本です。

  • 計上できるのは、賃金改善によって増えた会社負担分
  • 本人控除額と会社負担額は必ずしも同額にならない
  • 実績報告では実額に基づいて計算し、根拠資料を残す

この記事で分かること

対象となる法定福利費/会社負担分の考え方/賞与支給時の計算/実績報告で残す資料/よくある誤り

はじめに

処遇改善加算の実績報告では、職員へ支給した基本給、手当、賞与等に加え、その賃金改善によって増加した事業主負担の法定福利費等を賃金改善額に含められる場合があります。

ただし、会社が支払った社会保険料等の全額を計上できるわけではありません。計上できるのは、原則として「処遇改善による賃金増加に対応する増加分」です。

この記事のポイント

    • 法定福利費等は、賃金改善に伴う事業主負担の増加分を計上する
    • 給与から控除した本人負担額を、そのまま会社負担額として使わない
    • 健康保険、厚生年金、雇用保険等は制度ごとに負担方法が異なる
    • 労災保険や子ども・子育て拠出金など、事業主のみが負担する項目もある
    • 計算根拠となる料率、対象額、給与台帳、納付資料を保存する

1. 法定福利費とは?

法定福利費とは、法律に基づいて事業主が負担する社会保険料・労働保険料等です。主な項目は次のとおりです。

制度主な保険料等負担の特徴
健康保険健康保険料、介護保険料原則として事業主と被保険者が折半
厚生年金保険厚生年金保険料原則として事業主と被保険者が折半
子ども・子育て拠出金子ども・子育て拠出金事業主負担。年度の料率を確認
雇用保険雇用保険料労働者負担と事業主負担の料率が異なる
労災保険労災保険料全額事業主負担

任意の福利厚生費、通勤費、研修費、健康診断費等は、名称に「福利」が含まれても、処遇改善加算上の法定福利費等として自動的に計上できるわけではありません。

図解1法定福利費の内訳と負担の特徴

労使折半

  • 健康保険料、介護保険料
  • 厚生年金保険料

事業主のみ負担

  • 子ども・子育て拠出金(年度の料率を確認)
  • 労災保険料(全額事業主負担)

料率が異なる

  • 雇用保険料(労働者負担と事業主負担の料率が異なる)
任意の福利厚生費、通勤費、研修費、健康診断費等は、名称に「福利」が含まれても自動的に計上できるわけではない
※本文「1. 法定福利費とは?」を図解化したものです。

2. 計上できるのは「増加分」

処遇改善加算で手当や賞与を増額した場合、その増額に対応して会社の社会保険料・労働保険料等も増えることがあります。この事業主負担の増加分は、所定の要件のもとで賃金改善額へ含めることができます。

計算の基本は次のとおりです。

概算の考え方:賃金改善によって増えた算定対象額 × 適用される事業主負担率

これは概算の入口にすぎません。健康保険・厚生年金は標準報酬月額又は標準賞与額で決まり、保険料率、年齢、被保険者区分、上限額、端数処理等も関係します。そのため、実績報告では実際の増加額、又は通知・指定権者の取扱いに沿った合理的な算定根拠に基づく額を用い、単純な一律率だけで確定しないようにします。

図解2計上できるのは「増加分」
処遇改善で手当・賞与を増額
会社の社会保険料・労働保険料等も増える
この事業主負担の増加分所定の要件のもとで賃金改善額へ含めることができる

概算の考え方

  • 賃金改善によって増えた算定対象額 × 適用される事業主負担率

概算は入口にすぎない

  • 健康保険・厚生年金は標準報酬月額または標準賞与額で決まる
  • 保険料率、年齢、被保険者区分、上限額、端数処理等も関係する
  • 実績報告では実際の増加額、または合理的な算定根拠に基づく額を用いる
※単純な一律率だけで確定しないようにしてください。

3. 本人控除額と会社負担額は同額?

同額とは限りません。健康保険・厚生年金は原則折半ですが、次の理由により給与明細の本人控除額と、会社の法定福利費増加額は一致しないことがあります。

  • 雇用保険は本人負担率と事業主負担率が異なる
  • 労災保険料は事業主のみが負担する
  • 子ども・子育て拠出金等は事業主負担である
  • 介護保険は年齢等により対象が異なる
  • 標準報酬月額・標準賞与額の上限や端数処理がある
  • 同月に他の賃金変動があり、処遇改善分だけを区分する必要がある

賞与384,000円の例

処遇改善を原資として賞与384,000円を支給し、給与明細の社会保険料等の控除額が約56,000円(厚生年金35,136円・健康保険約19,000円・雇用保険約2,100円)だったとしても、会社負担の法定福利費を約56,000円と決めることはできません。

健康保険・厚生年金の会社負担、雇用保険の事業主負担、労災保険、子ども・子育て拠出金等を、支給時点の料率と対象額に基づいて別々に計算します。そのうえで、処遇改善による増加分だけを実績報告へ計上します。

図解3本人控除額と会社負担額は同額とは限らない

一致しない理由

  • 雇用保険は本人負担率と事業主負担率が異なる
  • 労災保険料は事業主のみが負担する
  • 子ども・子育て拠出金等は事業主負担である
  • 介護保険は年齢等により対象が異なる
  • 標準報酬月額・標準賞与額の上限や端数処理がある
  • 同月に他の賃金変動があり、処遇改善分だけを区分する必要がある

  • 賞与384,000円を支給し、給与明細の控除額が約56,000円(厚生年金35,136円・健康保険約19,000円・雇用保険約2,100円)だったとしても、会社負担の法定福利費を約56,000円と決めることはできない
※本文「3. 本人控除額と会社負担額は同額?」を図解化したものです。
あわせて読みたい処遇改善加算の配分方法|対象職員・賃金項目・注意点を解説

4. 実額と概算、どちらで計算する?

実績報告では、実際の給与・賞与と保険料の計算結果に基づくことが基本です。ただし、年度末の支給から保険料確定まで時間差がある場合など、通知で認められる範囲で合理的な方法により見込額を算出することがあります。

概算する場合も、次を明確にします。

  • 使用した保険料率と適用年度
  • 計算対象とした賃金改善項目
  • 対象職員と被保険者区分
  • 標準報酬月額・標準賞与額との関係
  • 実額との差額が生じた場合の取扱い

自治体の実績報告様式や記載要領に計算方法の指定がある場合は、その方法を優先してください。

図解4計算・管理の手順
処遇改善による基本給、手当、賞与の増加額を職員別に集計
社会保険・労働保険の加入状況を職員別に確認
各制度の事業主負担率と算定対象額を確認
処遇改善に対応する会社負担増加額を算出
賃金改善本体と法定福利費等を分けて一覧化し、加算取得額と照合
給与台帳、賞与明細、保険料額表、納付資料、計算表を保存する
※本文「5. 計算・管理の手順」を図解化したものです。

5. 計算・管理の手順

  • 処遇改善による基本給、手当、賞与の増加額を職員別に集計する
  • 社会保険・労働保険の加入状況を職員別に確認する
  • 各制度の事業主負担率と算定対象額を確認する
  • 処遇改善に対応する会社負担増加額を算出する
  • 賃金改善本体と法定福利費等を分けて一覧化する
  • 加算取得額と賃金改善総額を照合する
  • 給与台帳、賞与明細、保険料額表、納付資料、計算表を保存する

計算した結果をいつ報告するか

法定福利費等の増加分をいつまでに確定させるかは、実績報告の期限から逆算します。ある中核市の手引きでは、処遇改善加算を算定している事業者は毎年7月末日までに前年度の処遇改善実績報告書を提出することとされ、提出の詳細は6月下旬に指定権者から通知される運用になっています(様式番号は指定権者ごとに異なる)。

3月支給分の賞与に対応する社会保険料は4月以降に確定し、労働保険の年度更新も6月以降です。7月末を締切とすると、実額を確定できる期間はごく短くなります。次の順で前倒しに整理しておくと、締切直前に慌てずに済みます。

  1. 毎月、処遇改善による賃金増加額を職員別に集計する
  2. 同じ月のうちに、適用料率と算定対象額から事業主負担の増加額を計算しておく
  3. 年度末の賞与を支給したら、その月の保険料が確定した時点で数値を差し替える
  4. 6月下旬の指定権者からの案内で、様式・提出方法・記載要領を確認する
  5. 7月に入る前に、賃金改善本体と法定福利費等の内訳を確定させる

実績報告の期限の立て方は指定権者によって異なります(「最終の加算支払があった月の翌々月末」とする例と、暦月で「毎年7月末日」と固定する例があります)。提出方法、様式、記載要領の指定も自治体ごとに異なるため、申請先の自治体の年度案内を必ず確認してください。

図解5実績報告の期限から逆算する
毎月処遇改善による賃金増加額を職員別に集計し、同じ月のうちに事業主負担の増加額を計算
4月以降年度末の賞与に対応する保険料が確定した時点で数値を差し替える
6月下旬指定権者からの案内で様式・提出方法・記載要領を確認
7月に入る前賃金改善本体と法定福利費等の内訳を確定
3月支給分の賞与に対応する社会保険料は4月以降に確定、労働保険の年度更新も6月以降実績報告の期限は指定権者によって異なる(「最終の加算支払があった月の翌々月末」/「毎年7月末日」など)
※提出方法、様式、記載要領の指定も自治体ごとに異なるため、申請先の年度案内を必ず確認してください。
あわせて読みたい処遇改善加算の計画書と実績報告

6. よくある誤り

  • 会社が年間に支払った社会保険料全額を計上する
  • 本人控除額と同額を根拠なく会社負担分にする
  • 社会保険未加入者にも健康保険・厚生年金の会社負担を計上する
  • 処遇改善以外の昇給や残業増加による保険料増を含める
  • 料率改定前の古い料率を使う
  • 法定福利費等を含めた結果だけを残し、計算過程を保存しない
  • 見込額を使ったまま、実額との差額を確認しない
図解6よくある誤り

金額の取り方

  • 会社が年間に支払った社会保険料全額を計上する
  • 本人控除額と同額を根拠なく会社負担分にする
  • 社会保険未加入者にも健康保険・厚生年金の会社負担を計上する
  • 処遇改善以外の昇給や残業増加による保険料増を含める

根拠と記録

  • 料率改定前の古い料率を使う
  • 結果だけを残し、計算過程を保存しない
  • 見込額を使ったまま、実額との差額を確認しない
概算する場合も、算定対象額・適用料率・対象職員の範囲を明確にする自治体の様式や記載要領に計算方法の指定がある場合は、その方法を優先する
※本文「6. よくある誤り」を整理したものです。

よくある質問

Q
給与明細の社会保険料控除額を会社負担分として使えますか?
A

そのまま使うことはできません。雇用保険は労使の料率が異なり、労災保険や子ども・子育て拠出金等は事業主負担です。制度ごとに、処遇改善によって実際に増えた事業主負担額を確認します。

Q
法定福利費を概算で計上できますか?
A

通知や指定権者の取扱いで合理的な算定が認められる場合はあり得ます。ただし、適用料率、対象賃金、加入区分、計算過程を保存し、実額との差を確認できるようにします。

あわせて読みたい障害福祉の処遇改善加算|令和8年度の区分・対象・手続

まとめ

処遇改善加算で賃金改善額に含められる法定福利費等は、原則として賃金改善によって増えた事業主負担分です。本人控除額をそのまま転記せず、保険制度ごとの負担率と対象額に基づいて計算してください。

職員別の賃金改善額と法定福利費等の計算表を毎月更新しておくと、年度末の支給調整と実績報告がスムーズになります。

給与計算と処遇改善実績の整合を確認します

行政書士法人 障害福祉リーガルパートナーズでは、処遇改善加算の賃金改善集計、法定福利費等の計算整理、実績報告、賃金規程の整備を支援しています。

詳しくは処遇改善加算サポートのページをご覧ください。

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体系的に知りたい方はこちら処遇改善加算 完全ガイド|区分の選び方から配分・実績報告までの全体像

主な参考資料

  • 厚生労働省「障害福祉サービス等処遇改善加算について」 (出典)
  • 厚生労働省・こども家庭庁「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方(令和8年度分)」 (出典)

※本記事は令和8年8月24日時点の情報に基づいています。実際の料率は加入先、地域、年度等により異なります。 

執筆者 永野将太(行政書士・社会保険労務士)
執筆者WRITER
永野 将太
行政書士法人 障害福祉リーガルパートナーズ 代表

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。

これまで5,000件を超える相談に対応。法令・通知・行政実務を踏まえながら、制度上の正しさだけでなく、実際の事業所運営まで見据えた実務的な情報発信を行っています。