随時改定(月額変更届)は、昇給や降給などにより報酬が大幅に変わったときの手続きです。3つの要件をすべて満たす場合に該当し、ひとつでも欠ければ随時改定にはなりません。判断の起点は固定的賃金の変動で、改定時期と適用期間も定められています。
- 3要件をすべて満たす場合に随時改定となる
- 起点となるのは固定的賃金の変動
- 年間平均による随時改定という例外もある
この記事で分かること
昇給・降給などにより報酬が大きく変わったときに提出する「月額変更届」について、随時改定の3つの要件、固定的賃金の変動にあたるもの、改定時期と適用期間、年間平均による随時改定、産前産後休業・育児休業等終了時の改定との違いまでを整理します。
はじめに
随時改定は、定時決定を待たずに標準報酬月額を見直す仕組みです。昇給や手当の新設によって報酬が大きく変わったにもかかわらず、随時改定を行わないまま放置すると、実際の報酬と標準報酬月額が乖離したままになります。
障害福祉サービス事業所では、処遇改善加算の配分方法を変更したとき、常勤・非常勤の区分を変えたとき、夜勤専従に切り替えたときなどに、固定的賃金の変動が生じます。これらは随時改定の起点になります。
この記事では、日本年金機構が公表している手続き案内をもとに、随時改定の判定と届出の実務を整理します。
この記事のポイント
- 随時改定の要件は、(1)固定的賃金の変動、(2)変動月以後3か月の平均で2等級以上の差、(3)その3か月の支払基礎日数がいずれも17日(短時間労働者は11日)以上の3つをすべて満たすことです。
- 改定されるのは、変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目の標準報酬月額からです。
- 提出時期は「速やかに」。提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所です。
- 改定月が6月までの場合はその年の8月まで、7月以降の場合は翌年8月まで適用されます。
- 産前産後休業・育児休業等の終了時の改定は、1等級以上の差で、3か月のうち少なくとも1か月の支払基礎日数が17日以上であれば行える別の仕組みです。
1. 随時改定とは
被保険者の報酬が昇給や降給等により大幅に変わったときであって、一定の要件に該当した場合は、定時決定を待たずに、変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目の標準報酬月額から改定されます。これを随時改定といいます。
届書の名称は健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届です。
2. 随時改定の3要件
次の3つをすべて満たす場合に随時改定に該当します。ひとつでも欠ければ改定は行いません。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| (1)固定的賃金の変動 | 昇給または降給等により固定的賃金に変動があったこと |
| (2)2等級以上の差 | 変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額により算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたこと |
| (3)支払基礎日数 | 変動月以後引き続く3か月の報酬の支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であること |
よくある誤りは、「残業が増えて手取りが大きく増えたから随時改定」というものです。残業手当は固定的賃金ではないため、それだけでは要件(1)を満たしません。
障害福祉サービス事業所で該当しやすい場面
- 処遇改善加算に基づく手当を毎月定額で支給する形に変更したとき
- サービス管理責任者に就任して役職手当が付いたとき
- 夜勤専従に変わって夜勤手当が固定額になったとき
注意
- 固定的賃金の変動方向と平均額の変動方向が一致しない場合は、随時改定に該当しないのが原則
3. 固定的賃金の変動にあたるもの
固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっている賃金です。次のような変更が固定的賃金の変動にあたります。
- 昇給・降給
- 給与体系の変更(日給から月給への変更等)
- 日給・時間給の基礎単価(時給)の変更
- 手当の追加・変更(住宅手当・資格手当・役職手当などの新設や額の改定)
- 一時帰休に伴う報酬の変動
障害福祉サービス事業所で該当しやすいのは、処遇改善加算に基づく手当を毎月定額で支給する形に変更したとき、サービス管理責任者に就任して役職手当が付いたとき、夜勤専従に変わって夜勤手当が固定額になったときなどです。
固定的賃金が上がったのに残業減少などで3か月平均が下がった場合、あるいはその逆の場合の取扱いには注意が必要です。固定的賃金の変動方向と平均額の変動方向が一致しない場合は、随時改定に該当しないのが原則です。
同じ月に増額と減額が重なったときは「固定的賃金の総額」で判断する
昇給で基本給が上がった一方、引っ越しにより通勤手当が下がった、というように、同じ月に固定的賃金の増額と減額が同時に発生することがあります。この場合は、個々の手当ごとに見るのではなく、変動後の固定的賃金の総額が増額したのか減額したのかで、増額改定・減額改定のどちらの対象になるかを判断します。
| 項目 | 変動前 | 変動後 |
|---|---|---|
| 基本給 | 24万円 | 26万円(増額) |
| 通勤手当 | 2万円 | 1万円(減額) |
| 固定的賃金の総額 | 26万円 | 27万円(1万円の増額) |
この例では固定的賃金の総額が増額しているため、増額改定として扱います。あわせて変動月以後3か月の報酬の平均額も増額し、2等級以上の差が生じていれば随時改定に該当します。平均額が減額していれば、前の項目のとおり変動方向が一致しないため該当しません。
なお、定額の手当を廃止して同額の手当を新設したときのように、固定的賃金の総額に変動が生じない場合は随時改定の対象になりません。この取扱いは、日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の「○随時改定について」問5に示されています。
4. 改定時期と適用期間
改定されるのは、変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目です。たとえば4月に昇給し、4月支給分から新しい賃金が反映された場合、4月・5月・6月の3か月の平均で判定し、7月から標準報酬月額が改定されます。
改定後の標準報酬月額は、改定月が1月から6月までの場合はその年の8月まで、7月から12月までの場合は翌年の8月まで適用されます。
7月改定に該当する職員は、算定基礎届の対象外になります。定時決定の準備と同時に、随時改定該当者の切り分けを行ってください。
5. 年間平均による随時改定
業務の性質上、例年季節的に報酬が変動する場合には、通常の3か月平均ではなく年間報酬の平均で算定する取扱いがあります。この場合は申立書の提出が必要です。
また、遡って昇給し差額を受けた場合など、通常の方法による算定が著しく不当となる場合には、保険者算定の対象になります。該当しそうなケースは、届出前に管轄の年金事務所に確認してください。
あわせて読みたい算定基礎届(定時決定)|支払基礎日数と提出期限6. 産前産後休業・育児休業等終了時の改定
産前産後休業や育児休業等から復帰し、短時間勤務などにより報酬が下がった場合には、随時改定とは別の仕組みで標準報酬月額を改定できます。
| 項目 | 随時改定 | 産休・育休終了時の改定 |
|---|---|---|
| 等級差の要件 | 2等級以上 | 1等級以上 |
| 支払基礎日数 | 3か月ともに17日以上 | 3か月のうち少なくとも1か月が17日以上(短時間労働者は11日以上) |
| 固定的賃金の変動 | 必要 | 不要 |
届書の名称は健康保険・厚生年金保険 産前産後休業終了時報酬月額変更届および育児休業等終了時報酬月額変更届です。いずれも提出時期は「速やかに」、添付書類は原則不要です。
育児休業等終了時の改定の対象は、育児・介護休業法による満3歳未満の子を養育するための育児休業等終了日に、3歳未満の子を養育している被保険者です。改定後の標準報酬月額は、1月〜6月に改定された場合は当年の8月まで、7月〜12月に改定された場合は翌年の8月まで適用されます。
あわせて、3歳未満の子を養育する期間について従前の標準報酬月額で年金額を計算する養育期間標準報酬月額特例申出書の提出も検討してください。標準報酬月額が下がっても将来の年金額が下がらないようにする仕組みです。
随時改定
- 等級差:2等級以上
- 支払基礎日数:3か月ともに17日以上
- 固定的賃金の変動:必要
産休・育休終了時の改定
- 等級差:1等級以上
- 支払基礎日数:3か月のうち少なくとも1か月が17日以上
- 固定的賃金の変動:不要
7. 提出方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出時期 | 速やかに |
| 提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 |
| 提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 |
随時改定は「該当したら届け出る」ものであり、年金事務所から案内が届くわけではありません。給与計算の担当者が、固定的賃金の変更を記録し、3か月後に判定する運用を組み込んでおく必要があります。
実務上の注意点
固定的賃金を変えた月を記録に残す
随時改定の起点は固定的賃金の変動です。給与規程や個別の労働条件通知書を変更した月を一覧で管理し、3か月後に判定するリマインドを設定しておくと漏れを防げます。
処遇改善加算の配分変更は随時改定の起点になる
処遇改善加算の配分を一時金中心から毎月の手当中心に変更すると、固定的賃金が増加します。加算の配分計画を変更するときは、社会保険料への影響もあわせて試算しておくと、職員への説明がしやすくなります。
降給のときこそ忘れない
随時改定は報酬が下がった場合にも必要です。降給の届出を怠ると、実態より高い標準報酬月額のまま保険料が控除され続け、職員の不利益になります。上げたときだけ届け出るという運用にならないよう注意してください。
固定的賃金を変えた月を記録に残す
- 給与規程や個別の労働条件通知書を変更した月を一覧で管理
- 3か月後に判定するリマインドを設定する
処遇改善加算の配分変更は起点になる
- 一時金中心から毎月の手当中心に変更すると固定的賃金が増加する
- 配分計画を変更するときは社会保険料への影響もあわせて試算
降給のときこそ忘れない
- 届出を怠ると、実態より高い標準報酬月額のまま保険料が控除され続け、職員の不利益になる
実務チェックリスト
□ 固定的賃金の変動があった職員をリスト化した
□ 変動月以後3か月の報酬の平均額を算出した
□ 従前の標準報酬月額との等級差が2等級以上あるかを確認した
□ 3か月とも支払基礎日数17日(短時間労働者は11日)以上であることを確認した
□ 固定的賃金の変動方向と平均額の変動方向が一致しているかを確認した
□ 4か月目からの改定であることを給与計算に反映した
□ 7月改定に該当する職員を算定基礎届の対象から除外した
□ 産休・育休からの復帰者について、終了時報酬月額変更届の要否を確認した
□ 養育期間標準報酬月額特例申出書の案内を行った
よくある質問
なりません。随時改定には固定的賃金の変動が必要です。残業手当のみの増減では要件を満たしません。
変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目からです。4月支給分から新しい賃金が反映されていれば、4月・5月・6月で判定し、7月から改定されます。
随時改定の要件は3か月とも17日以上(短時間労働者は11日以上)です。1か月でも下回る場合は随時改定に該当しません。
育児休業等終了時報酬月額変更届であれば、1等級以上の差があり、終了日の翌日が属する月以後3か月のうち少なくとも1か月の支払基礎日数が17日以上であれば改定できます。随時改定より要件が緩やかです。
速やかに提出してください。遡って改定されると、保険料の差額の精算が必要です。降給の場合は職員に返還すべき保険料が発生することもあります。
まとめ
随時改定は固定的賃金の変動を起点に、3か月平均で2等級以上の差、3か月とも支払基礎日数17日以上という3要件で判定します。要件のひとつでも欠ければ改定しません。
賃金制度の変更が多い障害福祉サービス事業所では、「固定的賃金を変えた月」を記録に残し、3か月後に判定する運用を仕組みとして持っておくことが、最も確実な対応です。
賃金制度の見直しと社会保険の手続きを、あわせてご相談ください
障害福祉リーガルパートナーズは、障害福祉サービスに専門特化した行政書士法人です。代表の永野将太は行政書士と社会保険労務士の資格を併せ持ち、指定申請・報酬請求の実務と労務管理の両面を、ひとつの窓口でご相談いただけます。
静岡・神奈川・愛知を中心に、オンラインで全国に対応しています。処遇改善加算の配分設計と、それに伴う社会保険料への影響も含めて整理いたします。
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主な参考資料
- 参考:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」/「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」
- 参考:日本年金機構「保険者決定」
- 参考:日本年金機構「産前産後休業終了時報酬月額変更届の提出」
- 参考:日本年金機構「育児休業等終了時報酬月額変更届の提出」
- 参考:日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
※本記事は令和8年8月28日時点の法令・通知・日本年金機構の公表資料に基づく一般的な整理です。実際の届出にあたっては、管轄の年金事務所・事務センターの取扱い、健康保険組合の定め、最新の様式・記載要領を必ずご確認ください。

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。
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