被保険者資格喪失届は、従業員が退職・死亡したときなどに提出します。資格喪失日の考え方が保険料の負担に直結し、月末退職と月途中退職とで控除の扱いが変わります。同じ月に資格取得と喪失があった場合(同月得喪)には、別の取扱いが定められています。
- 勤務時間の減少で加入要件を満たさなくなった場合も対象
- 保険料は資格取得日の属する月から、喪失日の属する月の前月まで発生する
- 資格確認書などは回収して添付する
この記事で分かること
従業員が退職・死亡したときに提出する「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」について、資格喪失日の考え方、提出期限と添付書類、月末退職と月途中退職で変わる保険料の控除、資格取得と同じ月に喪失した場合(同月得喪)の取扱い、75歳到達による健康保険の資格喪失までを整理します。
はじめに
退職手続きのなかで、給与計算と並んでミスが起きやすいのが被保険者資格喪失届です。資格喪失日を1日ずらしただけで、保険料の負担が1か月分変わってしまうためです。
障害福祉サービス事業所では、年度末や加算体制の見直しのタイミングで退職が重なることがあります。月末退職と月途中退職では給与から控除できる保険料が変わるため、退職日の決め方そのものが労務管理の論点になります。
この記事では、日本年金機構が公表している手続き案内をもとに、資格喪失届と保険料徴収の実務を整理します。
この記事のポイント
- 提出する届書は健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者不該当届。提出時期は事実発生から5日以内です。
- 従業員が負担する保険料は、被保険者資格を取得した日の属する月から、喪失した日(退職日の翌日)の属する月の前月まで発生します。
- 月の途中で退職した場合は退職月の前月分を、月末に退職した場合は前月分と退職月の2か月分を、退職月の給与から控除できます。
- 資格を取得した月の月末以前に資格を喪失した場合(同月得喪)は、厚生年金保険料の納付が必要です。
- 資格確認書や高齢受給者証などは回収して添付します。紛失等により回収できない場合は健康保険 資格確認書回収不能届を提出します。
1. 資格喪失の事由と資格喪失日
資格喪失届が必要になるのは、退職・死亡のほか、勤務時間の減少により加入要件を満たさなくなった場合や、年齢到達により資格を喪失する場合です。資格喪失日は事由によって異なります。
| 事由 | 資格喪失日 |
|---|---|
| 退職 | 退職日の翌日 |
| 死亡 | 死亡日の翌日 |
| 70歳到達(厚生年金保険) | 70歳の誕生日の前日 |
| 75歳到達(健康保険) | 75歳の誕生日当日(後期高齢者医療制度へ移行) |
特に間違いやすいのが「退職日の翌日」です。3月31日退職であれば資格喪失日は4月1日、3月30日退職であれば3月31日となり、後者は3月分の保険料が発生しません。
退職
- 退職日の翌日
死亡
- 死亡日の翌日
70歳到達(厚生年金保険)
- 70歳の誕生日の前日
75歳到達(健康保険)
- 75歳の誕生日当日(後期高齢者医療制度へ移行)
2. 提出期限と提出先
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届書名 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者不該当届 |
| 提出時期 | 事実発生から5日以内 |
| 提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 |
| 提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 |
退職者の次の就職先での手続きや、国民健康保険・国民年金への切替えは、資格喪失の処理が完了しないと進みません。退職者に不利益が生じないよう、期限内の提出を徹底してください。
3. 添付書類と資格確認書の回収
資格喪失届には、交付されている場合に次の書類を添付します。
- 資格確認書
- 高齢受給者証
- 特定疾病療養受療証
- 限度額適用認定証
- 限度額適用・標準負担額減額認定証
- 健康保険 資格確認書回収不能届(紛失等により回収ができない場合)
本人分だけでなく被扶養者分もあわせて回収する必要があります。退職の申出を受けた時点で、家族の分を含めて返却を依頼しておくと、回収不能届の提出を避けられます。
このほか、継続再雇用に該当する場合などには、就業規則・退職辞令の写し、雇用契約書の写し、退職日および再雇用された日に関する事業主の証明書の添付が必要です。
被保険者資格喪失届/70歳以上被用者不該当届
- 提出時期:事実発生から5日以内
- 提出先:事務センターまたは管轄の年金事務所
- 提出方法:電子申請、郵送、窓口持参
添付書類
- 交付されている場合の資格確認書等(本人分と被扶養者分)
- 紛失等で回収できない場合は健康保険 資格確認書回収不能届
- 継続再雇用に該当する場合は、就業規則・退職辞令の写し、雇用契約書の写し、退職日および再雇用日に関する事業主の証明書
4. 保険料はいつまで発生するか
従業員が負担する保険料は、被保険者資格を取得した日の属する月から、喪失した日(退職日の翌日)の属する月の前月まで発生します。事業主は毎月の給与から前月分の保険料を控除できます。
| 退職のパターン | 資格喪失日 | 退職月の給与から控除できる保険料 |
|---|---|---|
| 月の途中で退職(例:3月20日退職) | 3月21日 | 退職月の前月分(2月分) |
| 月末に退職(例:3月31日退職) | 4月1日 | 前月分と退職月の2か月分(2月分・3月分) |
月末退職の場合に2か月分を控除できるのは、退職月分の保険料が発生するためです。従業員から「なぜ最後の給与だけ2倍引かれているのか」と質問を受けやすい部分なので、退職時の説明資料に一文入れておくとトラブルを防げます。
賞与に対する保険料は、支給する賞与から控除できます。ただし、退職月に支給する賞与は、月末に退職する場合を除き、保険料控除の対象となりません。
5. 同月得喪(同じ月に資格取得と喪失があった場合)
日本年金機構は、厚生年金保険の資格を取得した月の月末以前にその資格を喪失した場合は、厚生年金保険料の納付が必要になると案内しています。
たとえば4月10日に入社し、4月25日に退職した場合、資格取得と資格喪失が同じ月に発生します。この場合でも、その月の厚生年金保険料が発生します。短期間で退職した職員について、給与から保険料を控除し忘れると事業主負担が増えるため、入退社が同月内で完結したケースは給与計算時に必ず確認してください。ただし、同じ月のうちに国民年金の被保険者となった場合など、後日その厚生年金保険料が還付されることがあります。還付の案内が届いたら、被保険者負担分は事業主から本人へ返します。なお、健康保険料は還付されません。
障害福祉サービス事業所では、試用期間中の早期退職や、夜勤に馴染めず短期間で退職するケースが一定数あります。同月得喪は見落としやすい論点です。
月の途中で退職
- 退職月の給与から控除できるのは、退職月の前月分
月末に退職
- 退職月の前月分と退職月の2か月分
同月得喪
- 資格を取得した月の月末以前に喪失した場合も、その月の厚生年金保険料が発生する
- 例:4月10日入社・4月25日退職 → 4月分の保険料が発生
- 給与から控除し忘れると事業主負担が増える
- 同じ月のうちに国民年金の被保険者となった場合など、後日その厚生年金保険料が還付されることがある(被保険者負担分は事業主から本人へ返す。健康保険料は還付されない)
6. 年齢到達による資格喪失
年齢到達による資格喪失は、退職と異なり自動的に発生します。
- 厚生年金保険は70歳到達で被保険者資格を喪失します。引き続き使用する場合は「厚生年金保険 70歳以上被用者該当届」を提出し、在職老齢年金の計算対象となります。
- 健康保険は75歳到達で資格を喪失し、後期高齢者医療制度に移行します。
70歳・75歳の到達日が近い職員がいる場合は、給与計算ソフトの設定とあわせて事前に確認しておくと、保険料の控除誤りを防げます。
7. 死亡したときの手続き
従業員が死亡した場合も、資格喪失届の提出が必要です。資格喪失日は死亡日の翌日となります。資格確認書等の回収も同様に必要です。
あわせて、遺族に対する年金給付(遺族厚生年金)や埋葬料の請求など、遺族側の手続きが発生します。事業主として証明書類の作成を依頼されることがあるため、在職期間や報酬に関する記録を確認できるようにしておいてください。
実務上の注意点
退職日の決め方を事前に説明する
月末退職か月末前日退職かで、保険料の負担が1か月分変わります。従業員が自ら退職日を選べる場面では、社会保険料と国民健康保険料・国民年金保険料のどちらを負担することになるかを含めて説明し、記録を残しておくと後の紛争を防げます。
資格喪失届と指定権者への変更届は別物
サービス管理責任者や管理者が退職する場合、年金事務所への資格喪失届とは別に、指定権者への変更届が必要です。人員基準を満たさなくなる場合は減算の対象にもなるため、退職の申出を受けた時点で両方の手続きを確認してください。
離職票・雇用保険の手続きとあわせて管理する
社会保険の資格喪失届は5日以内、雇用保険の資格喪失届は10日以内と期限が異なります。退職手続きのチェックリストに期限を並べて記載しておくと、提出漏れを防げます。
退職日の決め方を事前に説明する
- 月末退職か月末前日退職かで保険料の負担が1か月分変わる
- 社会保険料と国民健康保険料・国民年金保険料のどちらを負担するかを含めて説明し、記録を残す
資格喪失届と指定権者への変更届は別物
- サビ管や管理者が退職する場合、指定権者への変更届が別途必要
- 人員基準を満たさなくなる場合は減算の対象にもなる
雇用保険とあわせて管理する
- 社会保険の資格喪失届は5日以内、雇用保険は10日以内と期限が異なる
- 退職手続きのチェックリストに期限を並べて管理する
実務チェックリスト
□ 資格喪失日を「退職日の翌日」で確認した
□ 事実発生から5日以内に提出した
□ 本人および被扶養者の資格確認書等を回収した
□ 回収できない場合、資格確認書回収不能届を用意した
□ 月末退職か月途中退職かを確認し、退職月の給与から控除する保険料を確定した
□ 退職月に賞与を支給した場合、保険料控除の要否を確認した
□ 同じ月に資格取得と喪失がある場合、厚生年金保険料の発生を確認した
□ 70歳・75歳到達による資格喪失の有無を確認した
□ 指定権者への変更届の要否を確認した
よくある質問
3月31日退職の場合、資格喪失日は4月1日となり3月分の保険料が発生します。3月30日退職の場合、資格喪失日は3月31日となり3月分の保険料は発生しません。従業員本人の翌月以降の保険(国民健康保険等)の負担もあわせて確認してください。
健康保険 資格確認書回収不能届を添付して資格喪失届を提出します。被扶養者分についても同様です。
厚生年金保険の資格を取得した月の月末以前に資格を喪失した場合は、厚生年金保険料の納付が必要です。給与から控除できていない場合、事業主が負担することになりかねないため、最終給与の計算前に確認してください。
退職月に支給する賞与は、月末に退職する場合を除き保険料控除の対象となりません。ただし賞与支払届の提出自体は必要です。
退職者が次の健康保険や国民健康保険に加入できず、医療機関の窓口で困ることになります。5日以内の提出が守れない見込みのときは、管轄の年金事務所に相談してください。
まとめ
資格喪失届の実務は、資格喪失日=退職日の翌日という原則を押さえたうえで、月末退職か月途中退職かによって保険料の控除が変わることを理解しておけば、大きな誤りは防げます。
あわせて、同月得喪の場合に厚生年金保険料が発生すること、資格確認書等を被扶養者分まで回収することの2点は、見落としが多い実務ポイントです。退職手続きのチェックリストに組み込んで運用してください。
退職手続きと労務管理を、あわせてご相談ください
障害福祉リーガルパートナーズは、障害福祉サービスに専門特化した行政書士法人です。代表の永野将太は行政書士と社会保険労務士の資格を併せ持ち、指定申請・報酬請求の実務と労務管理の両面を、ひとつの窓口でご相談いただけます。
静岡・神奈川・愛知を中心に、オンラインで全国に対応しています。人員基準に関わる職員の退職についても、指定権者への届出とあわせてご相談いただけます。
関連記事
主な参考資料
- 参考:日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」
- 参考:日本年金機構「退職した従業員の保険料の徴収」
- 参考:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
※本記事は令和8年8月28日時点の法令・通知・日本年金機構の公表資料に基づく一般的な整理です。実際の届出にあたっては、管轄の年金事務所・事務センターの取扱い、健康保険組合の定め、最新の様式・記載要領を必ずご確認ください。

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。
これまで5,000件を超える相談に対応。法令・通知・行政実務を踏まえながら、制度上の正しさだけでなく、実際の事業所運営まで見据えた実務的な情報発信を行っています。
