代表取締役などの役員を処遇改善加算による賃金改善の対象に含められるかどうかは、令和8年4月9日に発出された国のQ&Aが判断の基礎になります。判断の中心は役職名ではなく、加算を算定する事業所の業務に実際に従事しているかどうかです。代表取締役が管理者を兼ねる場合の取扱いにも注意が必要です。
- 判断の中心は役職名ではなく、事業所の業務に実際に従事しているか
- 令和8年4月9日発出のQ&A(問2-9等)が根拠になる
- 代表取締役が管理者を兼ねる場合は取扱いを個別に確認する
はじめに|代表取締役は「役員だから対象外」ではありません
障害福祉サービス事業所で福祉・介護職員等処遇改善加算を算定する際、「代表取締役(社長)自身を賃金改善の対象に含められるか」というご質問が多く寄せられます。特に、職員数が少ない事業所や、代表者が現場業務に深く関与している事業所では、実務上の重要な論点です。
結論から言えば、代表取締役であっても、処遇改善加算を算定する事業所の業務に実際かつ継続的に従事していると判断できる場合は、賃金改善の対象に含めることができます。役員であることだけを理由に、一律に対象外となるわけではありません。
結論
代表取締役であっても、処遇改善加算の算定対象となる事業所の業務に実際かつ継続的に従事していると判断できる場合は、賃金改善の対象に含めることができます。役員であることだけを理由に、一律に対象外とはなりません。
1. 国のQ&Aで示されたこと
国のQ&Aで何が示されたのか
厚生労働省・こども家庭庁が令和8年4月9日に発出した「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」の問2-9では、代表取締役等の役員の取扱いが示されています。対象事業所の業務を行っていると判断できる場合は、処遇改善加算による賃金改善の対象に含めることができます。
具体例として、職員が一人で、代表取締役がサービス等利用計画作成業務を行う指定計画相談支援事業所も挙げられています。したがって、代表取締役が税務上の「使用人兼務役員」になれないことと、処遇改善加算の配分対象になれるかどうかは、別の論点として整理する必要があります。
どのような業務を行っていれば対象になるか
判断の中心は、役職名ではなく、処遇改善加算を算定する事業所の業務に実際に従事しているかどうかです。次のような業務を継続的に行っている場合は、対象事業所のサービス提供・運営に関する業務として説明しやすいと考えられます。
| 業務例 | 対象業務と |
|---|---|
| 個別支援会議への | 利用者の |
| 職員研修の | 支援技術、 |
| 利用者・家族との | サービス利用中の |
| 事故・苦情対応の | 発生原因を |
| 委員会・会議への | 虐待防止、 |
| 関係機関との | 相談支援事業所、 |
株主としての意思決定、利益配当、資産運用、障害福祉事業と無関係な他事業の経営など、対象事業所との関係を説明できない業務だけを行っている場合は、処遇改善加算の対象として整理することは困難です。
代表取締役が管理者を兼ねる場合の従事時間の考え方
代表取締役が事業所の管理者を兼ねているケースは多く、この場合は「対象事業所の業務に従事している」ことを人員基準の側からも説明できます。ただし、管理者としての従事時間には指定基準上の考え方があります。ある指定権者が公表する手引きでは、次のように整理されています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 管理者と | 常勤の |
| 兼務できる | 管理者と |
| 複数事業所の | 管理者のみを |
処遇改善加算の配分では「対象事業所の業務にどの程度関与しているか」の説明が求められます。管理者を兼ねているのであれば、勤務形態一覧表上の管理者としての勤務時間が、そのまま関与実態を示す資料になります。逆に、複数法人・複数事業所の代表を兼ねていて、管理者としての勤務時間がほとんど計上されていない場合は、配分の根拠を別途整理する必要があります。
就労継続支援A型・B型は「企業を経営した経験」も管理者の資格要件になる
代表取締役が管理者に就く場合、サービス種別によっては資格要件の確認が必要です。ある指定権者が公表する手引きでは、次のように整理されています。
| サービス種別 | 資格要件 |
|---|---|
| 生活介護、 | 次の ・社会福祉主事任用資格を ・社会福祉事業に |
| 就労継続支援A型、 | 次の ・社会福祉主事任用資格を ・社会福祉事業に ・企業を |
| 居宅介護、 | 資格要件なし |
就労継続支援A型・B型では「企業を経営した経験を有する」ことが資格要件の一つとされており、福祉分野の資格や実務経験がない代表取締役でも管理者に就ける整理です。一方、生活介護・就労選択支援・就労移行支援では、この選択肢がありません。
管理者に就任・変更する場合は、経歴書と実務経験証明書の提出を求められます。
2. 支給額と給与明細
支給額はどのように決めるか
代表取締役に対する個人別の上限額や、既存の役員報酬に対する一律の上限割合は定められていません。支給額は、役員報酬の額だけで機械的に決めるものではありません。
一方、Q&A問2-6では、職務内容や勤務実態に見合わない著しく偏った配分を行わないことが求められています。支給額は、次の事情を踏まえて合理的に設定します。
- 対象事業所の業務に従事する通常の時間・関与割合
- 担当する業務の内容と責任の程度
- 利用者支援、職員育成、会議等への関与頻度
- 他の職員への配分額との均衡
- 法人全体の加算額と賃金改善計画
具体的なイメージとして、既存の役員報酬に処遇改善加算手当を上乗せする場合の例を示します。
| 支給項目 | 月額 | 整理 |
|---|---|---|
| 既存の役員報酬 | 500,000円 | 従来の役員給与 |
| 処遇改善加算手当 | 個別に設定 | 加算による上乗せ |
支給額は、金額だけで適否が決まるものではありません。対象事業所への関与実態と、他の職員との配分バランスを説明できる資料を残しておくことが重要です。
あわせて読みたい処遇改善加算の配分方法|対象職員・賃金項目・注意点を解説給与明細ではどのように支給するか
加算による上乗せ額を明確に管理するため、給与明細上は、既存の「役員報酬」とは別に「処遇改善加算手当」として区分表示する方法が分かりやすいです。
| 給与項目 | 金額 |
|---|---|
| 役員報酬 | 月額500,000円 |
| 処遇改善加算手当 | 月額 |
| 支給合計 | 上記の合計額 |
ただし、国のQ&Aは「処遇改善加算手当」という名称や、別項目での表示を必須としているわけではありません。Q&A問1-3では、毎月支払われる手当の名称は、処遇改善手当、職能手当、資格手当、役職手当等のいずれでも差し支えないとされています。指定権者から個別の指示がある場合は、その指示に従います。
既存の役員報酬の一部を「処遇改善加算手当」に名称変更するだけでは、従来の賃金水準から実質的な上乗せがないため、原則として加算による賃金改善額にはなりません。
3. 税務・社会保険の取扱い
税務上は「役員給与」の増額になる
代表取締役は税務上の使用人兼務役員にはなれません。そのため、給与明細上で「処遇改善加算手当」と区分しても、税務上は、役員報酬と手当を合算した金額が代表取締役に対する役員給与として取り扱われます。
| 区分 | 取扱い |
|---|---|
| 給与明細上 | 役員報酬と |
| 法人税上 | 両者を |
| 社会保険等 | 雇用保険料は |
事業年度開始から3か月以内の改定が原則
役員給与の通常改定として損金算入を受けるには、原則として、事業年度開始の日から3か月を経過する日までに改定し、その後は毎月同額で支給する必要があります。
3か月経過後に、臨時改定事由等がないまま処遇改善加算手当を新設した場合は、増額部分が損金不算入となる可能性があります。国税庁の質疑応答事例でも、要件を満たさない期中増額について、従来額への上乗せ部分を損金不算入とする考え方が示されています。
税務上の安全策
支給開始前に税理士へ確認し、株主総会等の必要な社内決議を行った上で、通常の関与状況を基に月額定額で設定する方法が安全です。毎月の実績時間に応じて金額を変動させると、定期同額給与の要件を満たさないおそれがあります。
雇用保険・社会保険の取扱い
雇用保険
代表取締役は原則として雇用保険の被保険者にはなりません。したがって、処遇改善加算手当を別項目で支給しても、その手当から雇用保険料を控除する取扱いにはなりません。
健康保険・厚生年金保険
健康保険・厚生年金保険では、名称にかかわらず、事業所から経常的に支給される報酬が標準報酬月額の対象となります。役員報酬と処遇改善加算手当を合算して取り扱い、固定的賃金の変動後3か月の平均額により2等級以上の差が生じる場合などは、月額変更届(随時改定)の対象となる可能性があります。
あわせて読みたい処遇改善加算と法定福利費|賃金改善額に含められる範囲と計算方法4. 残しておく資料と計画書・実績報告
実務で残しておきたい資料
代表取締役を処遇改善加算の対象に含める場合は、対象事業所の業務への従事実態と、配分の合理性を客観的に説明できる資料を整えておくことが重要です。運営指導や税務調査に備え、次のような資料を残しておいてください。
- 対象事業所で担当する業務の職務分掌と、通常の関与時間・割合
- 個別支援会議、職員研修、利用者面談等の実施記録
- 事故・苦情対応や各種委員会への参加記録
- 処遇改善加算の配分基準と、他職員との均衡を示す資料
- 役員給与改定の議事録、税理士・指定権者への確認記録
代表者・管理者に変更が生じた場合の届出
代表取締役の交代や、代表取締役が管理者を退く場合には、変更の届出が必要です。提出期限は変更後10日以内とされ、次の書類が挙げられています(様式番号は指定権者ごとに異なる)。
| 変更の内容 | 主な提出書類 |
|---|---|
| 代表者・役員の | 変更届出書、 |
| 管理者の変更 | 変更届出書、 |
処遇改善加算の配分対象に代表取締役を含めている状態で代表者が交代した場合、変更届と併せて、賃金改善計画の対象者と配分内容を見直す必要があります。実績報告書との整合が取れなくなるため、期中の交代時は必ず配分内容を確認してください。
処遇改善計画書・実績報告書の提出時期
代表取締役を賃金改善の対象に含めるかどうかは、処遇改善計画書を提出する前に決めておく必要があります。計画書の提出期限は加算届と異なり、より早い時期に設定されていることがあります。ある指定権者が公表する手引きでは、次のように整理されています。
| 区分 | 提出期限 |
|---|---|
| 処遇改善加算を | 算定する |
| 区分を | 算定する |
| 処遇改善実績報告書 | 毎年 |
| 前年度から | 年度末に |
新規に算定する場合の期限が「前々月の末日」とされている点に注意してください。加算の届出一般(算定する月の前月15日まで)より1か月以上早いという整理です。
役員給与の改定は、事業年度開始の日から3か月以内に行うことが原則です。処遇改善加算の計画書提出時期と、役員給与の改定時期の両方から逆算し、いつから代表取締役への配分を開始するかを決めてください。
期限・方法・様式は指定権者ごとに違います。
あわせて読みたい処遇改善加算の計画書と実績報告よくある質問
含められます。代表取締役であっても、処遇改善加算を算定する事業所の業務に実際かつ継続的に従事していると判断できる場合は、賃金改善の対象に含めることができます。役員であることだけを理由に一律に対象外となるわけではありません。
判断の中心は役職名ではなく、加算を算定する事業所の業務に実際に従事しているかどうかです。個別支援会議への参加、職員研修の企画・実施、利用者・家族との面談、事故や苦情への対応の検討、虐待防止や感染症対策等の委員会への参画、関係機関との支援調整などを継続的に行っている場合は、対象業務として説明しやすくなります。
代表取締役に対する個人別の上限額や、既存の役員報酬に対する一律の上限割合は定められていません。役員報酬の額だけで機械的に決めるのではなく、事業所業務への関与の実態に照らして合理的に設定します。
役員報酬とは別に「処遇改善加算手当」として区分表示すると管理しやすくなります。ただし国のQ&Aでは、毎月支払われる手当の名称は処遇改善手当・職能手当・資格手当・役職手当等のいずれでも差し支えないとされており、別項目での表示が必須というわけではありません。指定権者から個別の指示がある場合はその指示に従います。
代表取締役は税務上の使用人兼務役員にはなれないため、給与明細上で区分しても、役員報酬と手当を合算した額が役員給与として取り扱われます。通常改定として損金算入を受けるには、原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までに改定し、その後は毎月同額で支給する必要があります。
代表取締役は原則として雇用保険の被保険者にはならないため、手当から雇用保険料を控除する取扱いにはなりません。健康保険・厚生年金保険では、名称にかかわらず経常的に支給される報酬が標準報酬月額の対象になります。そのため役員報酬と合算して扱い、固定的賃金の変動後3か月の平均額に2等級以上の差が生じたときなどは、随時改定(月額変更届)の対象になることがあります。
対象事業所で担当する業務の職務分掌と通常の関与時間・割合、個別支援会議・職員研修・利用者面談等の実施記録、事故や苦情への対応記録、各種委員会への参加記録などです。運営指導や税務調査に備え、従事実態と配分の合理性を客観的に説明できる資料を整えておきます。
まとめ
代表取締役でも、対象事業所の業務に実際かつ継続的に従事していれば、処遇改善加算による賃金改善の対象に含めることができます。支給額は職務内容・関与度・勤務実態・他職員との均衡を踏まえて設定し、給与明細上は手当として区分管理するのが実務的です。
ただし、税務上は役員給与の増額になるため、支給時期と定期同額給与の要件を必ず確認してください。事業年度開始から3か月以内の改定を原則とし、支給開始前に税理士・指定権者へ確認しておくことで、損金不算入や加算返還といったリスクを避けやすくなります。
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障害福祉リーガルパートナーズは、障害福祉サービスに専門特化した行政書士法人です。代表の永野将太は行政書士と社会保険労務士の資格を併せ持ち、指定申請と労務管理の両面を、ひとつの窓口でご相談いただけます。
代表取締役への処遇改善加算の配分の可否や、対象要件・関与実態の考え方、賃金規程や社会保険上の留意点について、ご相談・助言を承っています。役員給与の改定時期や損金算入の取扱いは、顧問税理士にご確認いただく前提でご案内しています。運営顧問では、実際の書類や運用を一緒に確認しながら進めます。
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体系的に知りたい方はこちら処遇改善加算 完全ガイド|区分の選び方から配分・実績報告までの全体像主な参考資料
- 厚生労働省・こども家庭庁「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年4月9日)
- 厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」
- 国税庁「定期給与の額を改定した場合の損金不算入額」
- 国税庁 タックスアンサー No.5205「役員のうち使用人兼務役員になれない人」
- ハローワーク「雇用保険の被保険者の種類と要件」
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
※本記事は令和8年(2026年)7月時点の制度・公表資料に基づく一般的な解説です。処遇改善加算の配分や役員給与の取扱いは、事業所の状況や指定権者・所轄税務署の運用によって異なる場合があります。個別の事案については、指定権者、税理士その他の専門家へご確認ください。

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。
これまで5,000件を超える相談に対応。法令・通知・行政実務を踏まえながら、制度上の正しさだけでなく、実際の事業所運営まで見据えた実務的な情報発信を行っています。
