この記事で分かること
就労継続支援B型事業所が作成する「事業所工賃向上計画」について、記載事項、目標工賃の設定、平均工賃月額の計算方法、具体的な取組、毎年度の評価・見直しまでを実務的に解説します。
就労継続支援B型の工賃向上計画とは?
就労継続支援B型事業所には、利用者の工賃水準を向上させるため、「事業所工賃向上計画」を作成し、計画的に取り組むことが求められています。
工賃向上計画は、単に目標金額を記載する書類ではありません。現在の生産活動や収支を分析し、目標工賃を設定した上で、売上向上、経費削減、作業効率の改善、販路拡大などの具体的な取組を定め、毎年度その結果を評価するための計画です。
この記事のポイント
- 工賃向上計画は、目標額だけでなく、具体的な改善策と工程を定める計画です。
- 平均工賃月額は、令和6年度から見直された計算方法で算出します。
- 計画は個別支援計画や就労支援事業会計と連動させ、毎年度評価・見直しを行います。
1. 工賃向上計画を作成する目的
就労継続支援B型の利用者には、雇用契約に基づく賃金ではなく、生産活動の成果として「工賃」が支払われます。工賃を向上させるためには、作業量を増やすだけではなく、次のような取組が必要です。
- 単価の高い作業への転換
- 既存商品の品質向上
- 新商品の開発
- 新規取引先や販売先の開拓
- 作業工程の見直し
- 利用者の能力に応じた作業の細分化
- 材料費や外注費などの見直し
- 施設外就労の開拓
工賃向上計画は、これらの取組を事業所全体で進めるための基本方針となります。
2. 工賃向上計画の対象事業所
工賃向上計画の主な対象は、就労継続支援B型事業所です。そのほか、次の事業所についても、希望に応じて計画を作成することとされています。
- 就労継続支援A型事業所
- 生産活動を行う生活介護事業所
- 地域活動支援センター
実務上の注意
計画の作成義務や報酬上の取扱いは、サービス種別や選択している基本報酬によって異なるため、個別に確認する必要があります。
3. 計画の対象期間
令和6年度から令和8年度までの国の基本的な指針では、3年間を対象とした工賃向上の取組が示されています。
事業所工賃向上計画については、事業所の実情に応じて対象期間を設定し、各年度の目標と具体的な取組を定めます。計画期間中であっても、実績や生産活動の状況に変化があれば、内容を見直す必要があります。
4. 工賃向上計画に記載する内容
各年度の目標工賃月額
令和8年度までの各年度について、利用者1人当たりの目標工賃月額を設定します。最終年度の目標だけでなく、年度ごとの目標を設定することで、達成状況を確認できるようにします。
各年度に取り組む具体的な方策
目標を達成するため、どのような取組を行うのかを記載します。単に「売上を増やす」「作業を増やす」と記載するのではなく、取引先、作業内容、予定数量、単価、担当者、実施時期などを具体化することが重要です。
その他必要な事項
生産活動の課題、収支見込み、設備投資、人員体制、取引先の開拓状況など、目標達成に必要な事項を記載します。
5. 平均工賃月額の計算方法
令和6年度から、前年度平均工賃月額の計算方法が見直されています。計算は次の順序で行います。
| 計算項目 | 内容・計算式 |
|---|---|
| ① 工賃支払総額 | 前年度中に利用者へ支払った工賃の総額を集計します。 |
| ② 1日当たり平均利用者数 | 前年度の延べ利用者数 ÷ 前年度の年間開所日数 |
| ③ 1人当たり平均工賃月額 | 前年度の工賃支払総額 ÷ 1日当たり平均利用者数 ÷ 12か月 |
計算例
年間工賃支払総額が360万円、年間延べ利用者数が3,000人、年間開所日数が250日の場合、次のとおり計算します。
1日当たり平均利用者数 = 3,000人 ÷ 250日 = 12人
平均工賃月額 = 360万円 ÷ 12人 ÷ 12か月 = 25,000円
6. 目標工賃を設定する際のポイント
目標工賃は、単に高い金額を掲げればよいものではありません。国の指針では、次のような事項を踏まえて設定することが望ましいとされています。
- 前年度の平均工賃実績
- 障害年金と合わせて地域で生活するために必要な収入
- 地域の最低賃金
- 一般雇用されている障害者の賃金水準
- 都道府県が定める目標工賃
- 地域の産業や物価の状況
また、工賃目標については、原則として前年度以上の水準を設定することとされています。実現可能性のない目標ではなく、売上見込み、必要経費、利用者数及び作業日数を積み上げて設定することが重要です。
7. まず事業所の現状を分析する
工賃向上計画を作成する前に、現在の生産活動について分析します。例えば、次のような点を確認します。
- 作業ごとの売上はいくらか
- 作業ごとの材料費や外注費はいくらか
- 利益率の低い作業はないか
- 特定の取引先へ依存していないか
- 作業量に対して職員の負担が大きすぎないか
- 利用者の能力を十分に生かせているか
- 受注量が季節によって大きく変動しないか
- 設備や作業場所に改善の余地がないか
会計との連動
作業別の収支を把握していない場合、どの作業を増やし、どの作業を見直すべきか判断できません。工賃向上計画と就労支援事業会計を連動させることが重要です。
8. 具体的な工賃向上策
民間企業の経営手法を取り入れる
コンサルタントや企業OBなどの助言を受け、商品開発、市場開拓、作業効率の向上及び職場環境の改善を行います。
地域産業と連携する
農業、林業、水産業、観光業など、地域の産業と連携して新たな仕事を開拓します。農福連携のほか、高齢者の見守り、配食、清掃、データ入力など、地域課題と結び付けた仕事も考えられます。
共同受注を活用する
1つの事業所だけでは対応できない受注について、複数の事業所が共同して受注・生産・品質管理を行います。
施設外就労を検討する
企業などから請け負った作業を企業内等で行う施設外就労は、工賃向上や一般就労への移行に有効な取組とされています。請負契約、職員配置、個別支援計画及び支援記録など、施設外就労の要件を適切に整備する必要があります。
IT分野の作業を開拓する
データ入力、画像加工、ウェブサイト更新、電子化作業など、利用者の特性に応じたIT分野の生産活動も選択肢となります。
9. 管理者が主体的に取り組む
工賃向上は、目標工賃達成指導員や職業指導員だけに任せるものではありません。国の指針では、管理者が率先して取り組み、目標達成までの工程表を作成することが重要とされています。工程表には、例えば次の内容を記載します。
- 実施する取組
- 担当者
- 実施時期
- 売上目標
- 経費削減目標
- 進捗確認の時期
- 目標を達成できなかった場合の対応
また、計画の内容を職員だけでなく、利用者や家族にも示し、理解を得ながら進めることが求められています。
10. 個別支援計画との連動
工賃向上だけを優先し、利用者の障害特性や希望に合わない作業を行わせることは適切ではありません。生産活動は、適切なアセスメントに基づいて作成された個別支援計画と連動させる必要があります。例えば、次のような支援目標との関係を明確にします。
- 作業を継続する力を身につける
- 報告や相談の方法を身につける
- 作業の正確性を高める
- 対人コミュニケーションを身につける
- 一般就労に必要な能力を高める
工賃向上は、それ自体が目的ではなく、利用者の就労能力や生活の質を高めるための取組として行うことが重要です。
11. 毎年度、達成状況を評価する
工賃向上計画は、作成して保管するだけでは不十分です。毎年度、次の内容を確認します。
- 目標工賃を達成できたか
- 売上目標を達成できたか
- 予定していた取組を実施したか
- 想定より経費が増えていないか
- 利用者の能力向上につながったか
- 次年度に改善すべき点は何か
確認結果を踏まえ、翌年度の目標や取組内容を見直します。計画、実行、評価、改善というPDCAサイクルを継続することが、工賃向上計画の基本です。
12. 工賃向上計画でよくある不備
- 前年度実績と同じ目標をそのまま記載している
- 目標額の計算根拠がない
- 具体的な取組が「営業を強化する」だけになっている
- 生産活動収支と目標工賃が一致していない
- 計画作成後に評価や見直しを行っていない
- 管理者や職員が計画内容を把握していない
- 個別支援計画と生産活動が連動していない
ポイント
行政への提出用として形式的に作成するのではなく、実際の事業運営に使用できる計画を作成しましょう。
まとめ|工賃向上計画は継続的に見直す
工賃向上計画は、就労継続支援B型事業所が継続的に工賃を向上させるための重要な計画です。適正な計画を作成するためには、次の流れが必要です。
- 現在の生産活動と収支を分析する
- 根拠のある目標工賃を設定する
- 具体的な取組と工程表を作成する
- 職員、利用者及び家族と計画を共有する
- 毎年度、達成状況を評価して見直す
工賃向上計画、生産活動収支、就労支援事業会計、施設外就労、工賃規程及び運営指導対策については、それぞれの事業所の運営状況に応じて整備する必要があります。
当事務所での対応例
当事務所では、静岡市・静岡県内を中心に、障害福祉サービスに特化した行政書士・社会保険労務士として、就労継続支援B型の運営をサポートしています。工賃向上計画の作成・見直し、生産活動収支と就労支援事業会計の整理、目標工賃の設定根拠づくり、工程表の作成、施設外就労・共同受注の体制整備、個別支援計画との連動、運営指導対策まで、制度と実務の両面から支援します。
主な参考資料
- 厚生労働省「『工賃向上計画』を推進するための基本的な指針」(障発0329第42号・令和6年3月29日一部改正)
※本記事は令和8年(2026年)7月時点の制度・公表資料に基づく一般的な解説です。工賃向上計画の作成義務や報酬上の取扱いは、サービス種別や事業所の状況、指定権者の運用によって異なる場合があります。個別の事案については、指定権者その他の専門家へご確認ください。
