令和8年6月30日、厚生労働省とこども家庭庁が「障害福祉サービス事業者等の指定のガイドライン」を都道府県・指定都市・中核市などに通知しました。指定権者向けの資料ですが、これから開業する事業者にとっては、指定の前に何を確認されるかがわかる資料です。
- 事前相談では、代理人ではなく代表者や管理者本人が事業の内容を説明する
- 相談は指定の3〜5か月前、申請書類の審査は2か月前、現地審査は1か月前が目安
- 生活介護・就労継続支援A型・B型・児童発達支援・放課後等デイサービスなどは、総量規制で指定を受けられないことがある(グループホームは令和9年4月から対象)
- 市町村の意見をもとに、指定に条件が付くことがある
はじめに
障害福祉サービスの事業所を開くには、都道府県・指定都市・中核市など(指定権者)から指定を受ける必要があります。これまで、指定の事務をどう進めるかは自治体の判断に任されている部分が多く、国のガイドラインもサービス種別ごとのものにとどまっていました。
今回のガイドラインは、指定の事務全体を体系的にまとめた国の資料です。令和8年6月5日の社会保障審議会障害者部会で案が示され、6月30日付けで正式に通知されました。この記事では、開業する側から見て押さえておきたい点を整理します。
1. 指定のガイドラインとは
ガイドラインは、厚生労働省とこども家庭庁の連名通知「『障害福祉サービス事業者等の指定のガイドライン』の作成について」(令和8年6月30日 障障発0630第1号・こ支障第184号)で示されました。宛先は都道府県・指定都市・中核市・児童相談所設置市で、地方自治法にもとづく技術的助言という位置づけです。
背景には、事業所が増えて利用者の選択肢が広がる一方で、法令を守る意識が低い事業者や不適切な支援、不正請求による指定取消しが見られることがあります。事業の入口である「指定」の段階で、サービスの質を確保しようというのがねらいです。
中身は、大きく次の3つに分かれています。
- 指定事務の流れ:事前相談から指定までに、指定権者が何を説明し、何を確認するか
- 総量規制:地域のサービス量が足りている場合に、指定をしないことができる仕組みの使い方
- 意見申出制度:市町村の意見をもとに、指定に条件を付ける仕組みの使い方
あわせて、「特別な知識がなくても運営でき、高収益が出る」といった宣伝で安易な開設をすすめる業者を把握した場合は、国に情報提供するよう自治体に求めています。フランチャイズやコンサルタントの提案をきっかけに開業を考えている方は、この点も知っておいてください。
2. 事前相談では代表者本人が説明する
ガイドラインが示す一般的な流れは、事前相談・事前確認 → 市町村との意見交換(都道府県のみ) → 指定申請の審査 → 現地審査 → 指定、の順です。
事前相談で指定権者が確認する主な事項は、次のとおりです。
- 事業を始める理由と、法人の理念
- 必要な知識があり、守るべきことを理解しているか
- サービス管理責任者などの資格者や職員を確保できる見込み
- 設備基準や建築基準法・消防法などへの適合状況
- 開設する市町村との調整状況や、地域のニーズ調査
- そのサービス・地域を選んだ理由と、受け入れる利用者像・支援の内容
- 同じ法人がすでに運営している事業所の状況(基準違反の有無など)
- 就労支援の方針(就労系サービスのみ)
大事なのは、これらの説明を代表者や管理者、サービス管理責任者などから直接受けるとされている点です。行政書士やコンサルティング会社などの代理人ではなく、事業の中身を把握している人が説明することが求められます。
さらに、審査のときに面談した代表者などが、少なくとも最初の運営指導のころまでは一貫して事業を運営することが望ましいとされ、指定権者はそのことを申請者に前もって伝えるとしています。申請のときの説明と開業後の運営体制が食い違わないよう、計画の段階から責任者を決めておいてください。
あわせて読みたい障害福祉事業所は開業まで何か月かかる?3. 審査と現地審査で確認されること
申請書類の審査では、とくに次の3つで不備が多いとされています。
| 書類 | よくある不備 |
|---|---|
| 運営規程 | 記載が必要な項目が抜けている |
| 従業者の勤務の体制・勤務形態 | 基準に必要な人員が配置されていない、常勤換算の計算を誤っている |
| 管理者・サービス管理責任者等の経歴書 | 必要な実務経験の日数が足りない |
審査は、令和8年4月から国の標準様式で行うことになっています。就労系サービスで在宅支援を行う場合は、運営規程などが国の通知やQ&Aに合っているかも確認されます。生産活動の会計のように専門的な判断が必要なときは、中小企業診断士・社会保険労務士・税理士・行政書士などによる専門家会議で審査する方法も示されています。
また、建物の用途変更、改修工事、消防署の指導による設備の設置が終わっているか(終わる見込みか)を確認したうえで指定日を決め、期日までに完了が確認できなければ指定日を延ばすとされています。物件の工事や消防の手続が遅れると、そのまま開業日が遅れるということです。
現地審査では、次のような点を確認します。
- 指定基準の設備要件が守られているか
- 改修工事が終わっているか
- 消防署の指導による設備の設置が終わっているか
- サービス提供記録のひな型や掲示物、職員の出退勤管理など運営基準の準備
- 事業開始に必要な設備や備品がそろっているか
指定の後は、新しく指定した事業所を対象に、書類の整備や支援の状況を確認する運営指導を行うことが望ましいとされています。
あわせて読みたい障害福祉の指定申請でよくある不備10選 あわせて読みたい障害福祉サービスの設備基準4. 総量規制で指定を受けられない地域がある
総量規制は、地域のサービス量がすでに足りている場合などに、指定権者が指定をしないことができる仕組みです。区域内の利用定員の合計が、障害福祉計画で見込む必要な定員に達している(指定によって超える)場合や、計画の達成に支障が出るおそれがある場合が当たります。
| 法律 | 対象のサービス |
|---|---|
| 障害者総合支援法 | 生活介護、就労継続支援A型、就労継続支援B型、障害者支援施設(令和9年4月1日から共同生活援助も対象) |
| 児童福祉法 | 児童発達支援、放課後等デイサービス、障害児入所施設 |
総量規制を始めた地域では、原則として新規の指定や、定員を増やす指定は行われません。ただし、次のような場合は例外として扱うことが望ましいとされています。
- 強度行動障害のある方、重症心身障害のある方、医療的ケアが必要な方などを主な対象とする場合
- 事業の承継などで、実質的に支援体制が変わらない新規指定の場合
総量規制を解除するときは、公募で事業者を選ぶことが望ましいとされています。公募では、所在地、設備、人員配置、事業の継続性、職員の研修、地域との連携、事業計画などが評価されます。支援する利用者像を示して、アセスメントや個別支援計画を作ってもらう方法も挙げられています。
グループホーム(共同生活援助)は、令和8年3月31日に公布された施行規則の改正により、令和9年4月1日から総量規制の対象に加わります。同じ日から、グループホームの定員を増やすときは指定変更の申請が必要です。
5. 市町村の意見で指定に条件が付くことがある
令和6年4月から、市町村が都道府県の指定について、障害福祉計画との調整の観点から意見を出せるようになりました(意見申出制度)。都道府県は、その意見をふまえて指定に条件を付けることができます。指定都市・中核市は自ら指定するため、市の計画にもとづいて自ら条件を付けることができます。新規指定だけでなく、指定の更新も対象です。
ガイドラインが示す条件の例は、次のとおりです。
- 計画に書かれたニーズをふまえ、サービスを提供する地域や定員の変更(制限や追加)を求める
- 重度の方や特定の障害種別の受け入れ体制が足りない場合に、職員の研修参加や人材確保など受け入れの準備を求める
- サービスが足りない近隣の市町村の方にもサービスを提供する
- 地域の事業者のネットワークや協議会に参加・協力する
実際に都道府県が付けた条件として、「強度行動障害支援者養成研修を積極的に受講し、専門的な対応のできる職員の養成に努めること」(共同生活援助)や、「市の(自立支援)協議会に参加すること」などが紹介されています。
付けられた条件に違反すると、勧告や指定取消しの対象になり得ます。ガイドラインは、事前相談の段階で、条件が付く可能性を申請者に伝えるよう求めています。条件のもとになるのは開設する市町村の障害福祉計画なので、計画を読んでおくと、どのような条件が付きそうか見当がつきます。
あわせて読みたい第8期障害福祉計画の基本指針6. 開業を考えている事業者が準備しておくこと
ガイドラインをふまえると、開業の準備では次の点を早めに固めておくことが大切です。
- なぜこのサービスをこの地域で始めるのかを、代表者が自分の言葉で説明できるようにする
- 開設する市町村の障害福祉計画を読み、地域で足りていないサービスや利用者像を把握する
- 開設したいサービスが、その地域で総量規制や公募の対象になっていないかを最初に確かめる
- 物件は、用途変更・改修工事・消防設備の完了時期から逆算して指定日を決める
- 運営規程・勤務形態一覧表・経歴書の内容を突き合わせ、人員と実務経験に不足がないかを確認する
- 面談した代表者や管理者が、開業後も運営を担う体制にしておく
書類の作成や手続は行政書士に依頼できますが、事業計画の説明は代表者自身が行う前提で準備しておいてください。
よくある質問
ガイドラインは、国が指定権者に示した技術的助言で、事業者に直接義務を課すものではありません。ただし、指定権者はこれをふまえて事前相談や審査の進め方を見直すため、開業の手続には影響します。
ガイドラインは、代理人の同席を禁じているわけではありません。求めているのは、事業の内容の説明を代表者などから直接受けることです。書類の作成や手続の代行はこれまでどおり依頼できますが、代表者や管理者が面談で事業計画を説明できるよう準備しておく必要があります。紹介されている事例には、事前相談は代理人だけでも受け付け、管理者面談には本人の出席を必須としている指定都市もあります。
原則として、新規の指定や定員を増やす指定は行われません。ただし、重症心身障害や医療的ケアが必要な方などを主に受け入れる場合や、事業承継の場合を例外とする運用や、足りない分を公募で募集する運用があります。例外として指定を受けた場合は、その受け入れを条件として付けられることがあります。
令和9年4月1日から対象になります。同じ日から、グループホームの定員を増やすときは指定変更の申請が必要です。
ガイドラインは、新しく指定した事業所に対して、運営に必要な書類が整っているか、適切な支援がされているかを確認する運営指導を行うことが望ましいとしています。指定のときに、運営指導を行う旨が伝えられます。
まとめ
令和8年6月30日に通知された指定のガイドラインは、指定権者向けの資料ですが、開業する側にとっては審査の中身を知る手がかりになります。事前相談では代表者本人が事業計画を説明すること、物件の工事や消防の手続が終わらなければ指定日が延びること、地域によっては総量規制や指定の条件があることを、早い段階で押さえておいてください。
参考資料
指定申請・開業のご相談
障害福祉リーガルパートナーズは、障害福祉サービスに専門特化した行政書士法人です。代表の永野将太は行政書士と社会保険労務士の資格を併せ持ち、指定申請から日々の運営、労務管理までをひとつの窓口でご相談いただけます。
静岡・神奈川・愛知を中心に、オンラインで全国に対応しています。「事前相談で何を説明すればよいか整理したい」「物件の工事や消防の手続を含めて開業日を逆算したい」「運営規程と勤務形態一覧表の整合性を確認してほしい」といったご相談を承っています。
※この記事は、厚生労働省・こども家庭庁の通知(令和8年6月30日)と「障害福祉サービス事業者等の指定のガイドライン」(令和8年6月)にもとづいて整理したものです。
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障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。
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