「行政が言った」ことと「法令上の義務である」ことは、同じではありません。根拠を確認するのは反抗ではなく、事業所を守るために必要な作業です。自治体ごとの運用(ローカルルール)と法令上の義務を区別できないままでは、経営者は意思決定を誤ります。
- 「行政が言った」と「義務である」は別のこと
- 根拠を尋ねることは反抗ではない
- ローカルルールと法令上の義務を区別する
この記事の要点
行政から何かを求められたときの向き合い方を整理します。「行政が言った」と「法令上の義務である」は同じではないこと、根拠を確認することは反抗ではないこと、ローカルルールの受け止め方、そして経営者が制度を理解することが意思決定を自分の手に戻すことにつながる理由をまとめました。
はじめに
「市役所に言われました。」
私は、この一言だけでは動きません。まず確認するのは、「何を根拠に、そう言われたのか」です。
行政の説明を軽視するつもりはありません。むしろ逆です。きちんと尊重するためにも、義務なのか、協力依頼なのか、どのルールが適用されるのかを整理する必要があると考えています。この記事では、行政対応の姿勢を経営の観点から整理します。
1.「行政が言った」と「義務である」は、同じではない
障害福祉事業では、指定申請、変更届、体制届、加算、運営指導など、行政と話す場面が数多くあります。そこで何かを求められると、事業者側は「行政が言うなら従うしかない」と考えがちです。
しかし、行政からの説明には、法令上必要なもの、条例や要綱等に基づくもの、自治体の手続上求められるもの、任意の協力を求めるものなど、性質の違うものがあります。
だから大切なのは、反射的に従うことでも、反射的に反論することでもありません。「これは何に基づく話なのか」を整理することです。
守らなければならないもの
- 法令/法律、政令、省令、告示。全国共通のルール
- 条例・規則/指定権者が定めるもの。地域によって内容が異なることがある
必ずしも義務ではないもの
- 手続上の運用/提出方法、様式、期限など。守らないと手続が進まないが、内容の是非とは別
- お願い・協力依頼/望ましい取扱いとして示されるもの
2. 根拠を聞くのは、反抗ではない
「根拠はどこですか」と聞くと、行政に嫌われるのではないか。そう心配する経営者もいます。私は、聞き方の問題だと思っています。
「それはおかしい」と感情で返すのと、「この告示ではこう読めますが、今回はこちらが適用される理由をご教示いただけますか」と確認するのでは、全く違います。
根拠を確認することは、行政と戦うことではありません。行政と事業者が同じルールを見ながら話すためのスタートです。
3.「昔からこうです」「うちの自治体では」で止めない
障害福祉の実務では、自治体ごとに申請方法や様式、提出時期などの運用が異なることがあります。地域の実情に応じた取扱いが必要な場面もあります。
一方で、「ローカルルールだから」という一言だけで、すべての説明が終わるわけでもありません。法令上の義務なのか、自治体独自の手続なのか、お願いベースの運用なのかによって、意味は違います。
独自の取扱いがあるなら、その内容と適用範囲を確認する。これだけで、無用な対立も、不要な対応も減らせます。
なお、指定申請等の様式は令和8年4月から全国統一の標準様式に移行しています。「昔からこの様式で」という説明が、そのまま現在も正しいとは限りません。
あわせて読みたい【令和8年4月施行】障害福祉サービスの指定申請等の様式が全国統一へ4. 制度を知らない経営者は、意思決定を他人に預けることになる
職員を何人採用するか。利用定員を増やすか。加算を取るか。新しい事業所を出すか。障害福祉事業では、こうした経営判断のほとんどに制度が絡みます。
制度を全く理解していなければ、行政、職員、コンサルタント、専門家など、誰かが言ったことをそのまま採用するしかなくなります。
もちろん、経営者が法令をすべて暗記する必要はありません。ただ、「なぜこの人員が必要なのか」「何が変わるとこの加算が取れなくなるのか」といった判断軸は持つべきです。
制度を知ることは、資格試験の勉強ではありません。自分の会社の意思決定を、自分の手に戻すための経営知識です。
押さえておく制度の骨格
- 人員基準/常勤換算の考え方と、欠如したときに何が起きるか
- 報酬の決まり方/単位数、地域区分、稼働率の関係
- 加算・減算/取得の要件と、外れる条件
- 記録/個別支援計画とモニタリングの期限
細部は都度確認でよいこと
- 個別の加算の細かい算定要件
- 様式の記載方法や添付書類
- 自治体ごとの提出時期や手続の運用
- 改正のたびに変わる単位数の数値
5. 専門家が示すべきなのは、「答え」より「判断軸」
相談を受けたとき、「できます」「できません」だけ答える方が簡単です。ただ、それでは条件が少し変わった瞬間に、また判断できなくなります。
私は、可能な限り「なぜそうなるのか」まで伝えることを大切にしています。前提条件は何か。根拠はどこか。どの条件が変われば結論も変わるのか。
経営者がそこまで理解できれば、次に似た問題が起きたとき、「これは前回と条件が違うから確認が必要だ」と自分で気付けます。専門家への依存を強くすることより、経営者の判断力を強くすること。その方が、長い目で見て事業所を守ります。
6. 従うか、戦うかではない。根拠に基づいて話す
行政の話を聞かない。何でも反論する。それでは適正な運営はできません。反対に、何を言われても「行政が言うなら仕方ない」で終わらせるのも危険です。
行政の説明を尊重する。必要であれば根拠を確認する。こちらにも根拠があれば、冷静に示す。こちらが間違っていれば修正する。
目的は、行政に勝つことではありません。事業所が正しいルールの中で、安心して運営できる状態を作ることです。
従うか、戦うかではない。根拠に基づいて話す。私は、それが障害福祉事業における最も健全な行政対応だと考えています。
あわせて読みたい運営指導で報酬返還となるケース|加算金と時効の考え方まとめ
行政から何かを求められたとき、それが法令上の義務なのか、条例や要綱に基づくものなのか、手続上の運用なのか、任意の協力依頼なのかで、対応の重さは変わります。「行政が言った」と「義務である」は同じではありません。
根拠を確認することは、行政と戦うことではありません。同じルールを見ながら話すためのスタートです。事実を記録し、一次資料に当たり、質問の形で確認する。こちらが間違っていれば修正する。この順序を守れば、無用な対立は起きません。
そして、判断軸を持つのは経営者自身です。人員基準、報酬の決まり方、加算が外れる条件、記録の期限。この骨格を理解していれば、誰かの言葉をそのまま採用せずに済みます。制度を知ることは、自分の会社の意思決定を自分の手に戻すための経営知識です。
行政対応と制度の判断軸づくりをご支援します
行政書士法人 障害福祉リーガルパートナーズは、障害福祉サービスに専門特化した行政書士法人です。代表の永野将太は行政書士と社会保険労務士の資格を併せ持ち、指定申請から運営指導対応、労務管理までを一貫してご相談いただけます。
静岡・神奈川・愛知を中心に、オンラインで全国対応しています。指定権者とのやり取り、運営指導への対応、加算や人員配置の判断について、根拠を示しながら一緒に整理します。「これは義務なのか運用なのか分からない」という段階からご相談ください。
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※本記事は、障害福祉事業の経営に関する筆者の実務上の考え方をまとめたものです。制度の具体的な取扱いは、法令・通知および指定権者の運用をご確認ください。

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。
これまで5,000件を超える相談に対応。法令・通知・行政実務を踏まえながら、制度上の正しさだけでなく、実際の事業所運営まで見据えた実務的な情報発信を行っています。
