値下げや無料対応は今日からでもできますが、一度始めると元に戻すのは容易ではありません。「利用者のために」という言葉は、赤字を正当化する理由にはならないと考えています。価格で選ばれた事業所は価格で離れられるため、値下げの前に「何をやらない事業所なのか」を決めることが先です。
- 安売りは始めるのは簡単でも、元に戻すのは難しい
- 無料対応は善意のままでは終わらない
- 値下げの前に、やらないことを決める
この記事の要点
障害福祉事業における価格の考え方を、経営の観点から整理します。値下げや無料対応がなぜ元に戻しにくい判断なのか、「利用者のために」という言葉が赤字を正当化しないのはなぜか、価格で選ばれた会社が価格で離れられる理由、そして「やらないこと」を決めることの意味までをまとめました。
はじめに
安くすれば、選ばれやすくなります。無料にすれば、喜ばれます。頼まれたことを全部引き受ければ、「親切な事業所」と思ってもらえるかもしれません。
でも、それを3年続けられるでしょうか。
私は、続けられない親切は経営ではないと思っています。障害福祉事業だからこそ、善意だけではなく、継続できる仕組みと適正な利益が必要です。この記事では、価格と価値の関係を経営の視点から整理します。
1. 安売りは、始めるのは簡単でも、元に戻すのが難しい
値下げや無料対応は、今日からできます。設備投資も教育も不要です。だから、経営が苦しいときほど手を出しやすい。
問題は、一度下げた価格や一度無料にしたサービスを元に戻すのは難しいことです。昨日まで無料だったものを今日から有料にすれば、「前はやってくれたのに」と言われます。
安くする判断は簡単ですが、元に戻すには説明と覚悟が必要です。だからこそ、始める前に「これは継続できるのか」を考えるべきです。
安易に踏み出しやすい判断
- 「今回だけ」のつもりで無料で引き受ける
- 他社より安いことを打ち出して差別化する
- 断りにくいので、範囲外の依頼も受ける
- 対価を決めずに新しいサービスを始める
踏み出す前に確かめること
- それを1年続けたとき、誰が何時間使うのか
- 元に戻すとき、どう説明するのか
- その分の人件費は、どこから出すのか
- やめる基準を、始める前に決めているか
2.「利用者のために」は、赤字を正当化する言葉ではない
福祉の仕事では、「利益」という言葉に抵抗を感じる方もいます。しかし、私は利益を出すことと、良い支援をすることは対立しないと考えています。
利益がなければ、職員の給与を上げられません。研修に行かせられません。設備を更新できません。良い人材を採用できません。そして、事業そのものを続けられません。
赤字を続けることは、利用者思いの経営とは限りません。事業を続けられる状態を作ることも、利用者に対する責任です。事業所が閉鎖されて困るのは、そこに通っている方と、そこで働いている方です。
あわせて読みたい障害福祉事業は儲かる?|売上・人件費・利益率の仕組みと収支差率のデータ3. 無料対応は、善意のままでは終わらない
最初は「今回だけ」のつもりだった。少し手伝うだけだった。しかし、それが毎月続けば業務になります。業務になれば、人件費がかかります。
経営者が無料で引き受けた仕事を、実際にやるのは現場職員ということもあります。経営者にとっては小さなサービスでも、現場にとっては毎日の15分、30分の積み重ねです。
サービスを増やすときは、「相手が喜ぶか」だけではなく、「誰が、何分使い、年間でいくらのコストになるか」まで見る。善意を続けるには、数字が必要です。
4. 価格で選ばれた会社は、価格で離れられる
「一番安いから」という理由で選ばれれば、もっと安いところが出てきたときに比較されます。価格だけで作った差は、価格で簡単に消えます。
一方で、「この事業所なら安心できる」「職員の説明が丁寧」「トラブル時の対応が早い」「支援方針に共感できる」という信頼は、簡単には真似されません。
経営者が考えるべきなのは、「いくら下げれば選ばれるか」ではなく、「値段以外の何で選ばれるか」です。
価格で選ばれている状態
- 比較されるのは金額だけ
- より安い相手が出ると、すぐ乗り換えられる
- 値下げ以外の打ち手が残らない
- 値下げの分だけ、職員の処遇が下がる
価値で選ばれている状態
- 説明が丁寧で、判断の理由まで分かる
- 困ったときの対応が早い
- 支援の方針に納得できる
- 担当者が代わっても、質が落ちない
5. 値下げの前に、「何をやらない会社か」を決める
サービスを良くしようとすると、つい「あれもやる、これもやる」と足し算になりがちです。しかし、強い会社は何でもやる会社ではありません。
どこまでが自社のサービスなのか。何は別料金なのか。何はそもそも引き受けないのか。境界線を決めることも経営です。
何でも受ける会社は親切に見えますが、職員の負担が増え、肝心の支援の質が落ちれば意味がありません。「やらないこと」を決めるのは冷たさではなく、品質を守るための判断です。
境界線を決めておくと、断るときにも説明ができます。「うちではお受けしていません」ではなく、「この部分まではお引き受けし、ここからは別の機関にご相談いただいています」と言えるようになります。
6. 利益は、支援の敵ではなく「継続の原資」
適正な利益が残れば、職員に還元できます。採用できます。研修できます。設備に投資できます。専門家にも相談できます。何かあったときに耐えられる手元資金も作れます。
つまり利益とは、経営者が持って帰るお金だけではありません。事業を次の一年に運ぶための原資です。
障害福祉だからこそ、「安さ」より「続けられる価値」で選ばれる会社を作る。私は、その方が利用者にも職員にも誠実な経営だと考えています。
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値下げや無料対応は、今日からできる一番簡単な経営判断です。その代わり、元に戻すのが一番難しい判断でもあります。始める前に「それを1年続けたとき、誰が何時間使い、いくらのコストになるか」を確かめてください。
「利用者のために」という言葉は、赤字を正当化する理由にはなりません。利益がなければ、職員の処遇も、研修も、設備の更新も、事業の継続もできません。事業を続けられる状態を作ることも、利用者に対する責任です。
価格だけで作った差は、価格で消えます。値下げを考える前に、「値段以外の何で選ばれるか」と「何をやらない会社か」を決めてください。適正な利益は、支援の敵ではなく、事業を次の一年に運ぶための原資です。
続けられる事業の形づくりを、経営の視点からご支援します
行政書士法人 障害福祉リーガルパートナーズは、障害福祉サービスに専門特化した行政書士法人です。代表の永野将太は行政書士と社会保険労務士の資格を併せ持ち、指定申請から運営指導対応、労務管理までを一貫してご相談いただけます。
静岡・神奈川・愛知を中心に、オンラインで全国対応しています。サービスの範囲と対価の設計、収支計画の見直し、加算の取得や労務の整備まで、事業を続けられる形に整えるご相談を承っています。
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※本記事は、障害福祉事業の経営に関する筆者の実務上の考え方をまとめたものです。制度の具体的な取扱いは、法令・通知および指定権者の運用をご確認ください。

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。
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