転籍や転勤で給与の支給会社がA社からB社へ変わる月は、社会保険料と住民税の処理に注意が必要です。社会保険料を翌月控除で処理している場合、A社の給与が0円でも前月分の本人負担分が残ります。残った保険料は、B社の給与から「その他控除」として回収する方法などで処理します。
- 異動日以降の給与はB社で計算する
- 翌月控除の会社ではA社に前月分の社会保険料が残る
- 残った保険料はB社の給与から回収する方法がある
この記事で分かること
転籍や転勤で給与の支給会社がA社からB社へ変わる月の実務を、社会保険料と住民税の動きに沿って整理します。A社の給与が0円なのに前月分の社会保険料だけが残るケースの処理、B社の給与から回収する方法、給与所得者異動届出書による特別徴収の引継ぎ、二重控除を防ぐ確認の手順、そして転籍と在籍出向で扱いが変わる点までをまとめました。
はじめに
同じグループの中で会社が分かれている、法人を新設して事業を移した、複数の法人で事業を運営している。こうした場合に、職員の給与を支給する会社が途中で変わることがあります。
この切替月は、通常の給与計算とは勝手が違います。給与そのものはB社に移るのに、社会保険料と住民税は「控除する月」がずれるためです。とくに社会保険料を翌月控除で処理している場合、A社の給与が0円なのに前月分の保険料だけが残る、という状態が生じます。
この記事では、切替月に何を確認し、どう処理すればよいかを順を追って整理します。
この記事のポイント
- 切替月にずれるのは「控除する月」。給与の支給月と、社会保険料・住民税の対象月が一致しなくなる
- 翌月控除の会社では、A社の給与が0円でも前月分の社会保険料が残る
- 残った本人負担分は、B社の給与から「その他控除」で回収するか、本人からA社へ直接支払ってもらう
- いずれの方法でも、A社の未回収額とB社の控除額を一致させて管理する
- 住民税は給与所得者異動届出書により、A社からB社へ特別徴収を引き継げる
- いちばん多いミスは同じ月の住民税を両社で控除する二重控除。「何月分までA社」「何月分からB社」を明確にする
- 転籍(雇用契約がB社へ移る)と在籍出向(A社に在籍したまま)では、社会保険の資格の扱いが変わる
A社(旧支給会社)
- 前月まではA社から給与を支給していた
- 今月の給与・報酬は0円
- 翌月控除のため、前月分の社会保険料が残っている
- 住民税の特別徴収も切り替える
B社(新支給会社)
- 今月からB社が給与を支給する
- B社で通常どおり給与計算を行う
- A社に残った社会保険料の回収方法を決める
- 異動届の提出後、特別徴収を開始する
1. 想定するケース
この記事で扱うのは、次のようなケースです。
- 前月まではA社から給与を支給していた
- 今月からB社が給与を支給する
- A社では今月の給与・報酬は0円
- A社に前月分の社会保険料が残っている
- 住民税の特別徴収もA社からB社へ切り替える
2. 給与はB社で支給する
給与の支給先をA社からB社へ変更する場合、異動日以降の給与はB社で計算・支給します。A社では今月の給与・報酬を0円とし、B社側で通常どおりの給与計算を行います。
ここまでは難しくありません。問題は、給与の支給がなくなったA社に前月分の社会保険料が残る場合があることです。切替月でもっとも混乱しやすいのがこの点です。
A社の9月給与明細(翌月控除の例)
- 9月の給与 0円
- 8月分社会保険料 ▲20,000円
- 差引支給額 ▲20,000円
- 実際の状態/本人負担分20,000円が未回収
なぜこうなるのか
- 社会保険料を翌月控除で処理している会社では、当月に支払う給与から前月分の保険料を控除する
- 8月分の保険料は、本来9月支給の給与から控除するはずだった
- 9月からB社支給になると、A社には控除する原資(給与)がない
- 明細上はマイナスになるが、給与が0円なのでその明細だけでは回収できない
3. A社に前月分の社会保険料が残る
社会保険料を翌月控除で処理している会社では、当月に支払う給与から前月分の社会保険料を控除します。
たとえば、8月分の社会保険料を9月支給の給与から控除する会社で、9月から給与の支給先をB社へ変更すると、A社では「9月の給与は0円なのに、8月分の社会保険料だけが残る」という状態が生じます。
給与計算上はマイナスの明細が出ますが、給与自体が0円のため、その明細だけでは本人から社会保険料を回収できません。ここを処理せずに放置すると、A社の未回収額がそのまま残ります。
4. 残った社会保険料をどう回収するか
実務上の方法は2つです。
方法① B社の給与から回収する
A社で残った本人負担分の社会保険料を確認し、B社の給与で「その他控除」などの項目を使って回収します。A社では社会保険料のみが計上されたマイナス明細を残し、B社側で同額を控除する形です。
| 処理 | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 給与・報酬 | 0円 | 通常どおり支給 |
| A社の前月分社会保険料 | マイナス計上 | 「その他控除」で同額を回収 |
会社間では、B社で回収した金額をA社へ精算する形にしておくと処理が分かりやすくなります。グループ内であれば、月次の未収金・未払金で相殺しておきます。
方法② 本人からA社へ直接支払ってもらう
B社から控除せず、本人からA社へ直接振り込んでもらう方法もあります。少額であればこちらのほうが会社間の精算が発生せず、処理が単純です。
いずれの方法でも重要なのは、A社の未回収額とB社側の控除額(または本人からの入金額)を一致させて管理することです。金額が合わないまま決算を迎えると、原因の特定に時間がかかります。
なお、本人の同意なくB社の給与から任意の名目で控除することはできません。賃金からの控除は、法令に定めがある場合を除き、労使協定が必要です。「その他控除」で回収する場合は、賃金控除に関する労使協定の対象に含まれているかを確認し、本人にも事前に説明しておいてください。
あわせて読みたい社会保険料の納付と退職者の保険料徴収|納付期限・延滞金・猶予制度5. 住民税は異動届で引き継ぐ
住民税については、給与所得者異動届出書により、A社からB社へ特別徴収を引き継ぐことができます。
そのため、A社では切替後の住民税を控除せず、異動届を提出したうえで、B社の給与から特別徴収を開始する形にします。
特に注意したいのが、A社とB社の双方で同じ月の住民税を控除してしまう二重控除です。異動届を作成するときは、「何月分までA社で徴収したか」「何月分からB社で徴収するか」を明確にしておきます。
住民税は6月から翌年5月までを1年度として、毎月定額を徴収する仕組みです。切替月の前後で1か月分が抜けたり重なったりすると、年度の合計額が合わなくなります。異動届を出す前に、A社の住民税徴収簿で最後に控除した月を確認するのが確実です。
6. A社・B社の処理を一覧で比較
| 項目 | A社(旧支給会社) | B社(新支給会社) |
|---|---|---|
| 今月の給与 | 0円 | 支給する |
| A社の前月分社会保険料 | マイナス計上 | 必要に応じて「その他控除」で回収 |
| B社の社会保険料 | — | B社の加入・徴収時期に応じて控除 |
| 住民税 | 切替後は控除しない | 異動届提出後、特別徴収 |
| 給与明細 | 社会保険料のみでマイナスになる場合あり | 通常給与+必要な控除 |
B社の社会保険料をいつから控除するかは、B社での資格取得日と、B社が当月控除か翌月控除かによって決まります。A社が翌月控除、B社が当月控除といった組み合わせだと、切替月に2か月分が重なることも、逆に1か月分が抜けることもあります。両社の方式をそろえておくのがもっとも安全です。
7. 転籍と在籍出向で違うところ
同じ「支給会社が変わる」でも、雇用契約がどうなっているかで扱いが変わります。
| 転籍 | 在籍出向 | |
|---|---|---|
| 雇用契約 | A社との契約は終了し、B社と新たに締結 | A社に在籍したまま、B社で勤務 |
| 社会保険 | A社で資格喪失、B社で資格取得 | 給与を支給する会社で加入するのが原則。両社から報酬がある場合は二以上事業所勤務届 |
| 雇用保険 | A社で資格喪失、B社で資格取得 | 賃金を主に支払う会社で被保険者資格を継続 |
| 年末調整 | A社の源泉徴収票をB社へ提出し、B社で合算 | 支給の実態に応じて判断 |
| 本人の同意 | 個別の同意が必要 | 就業規則等の定めによる |
この記事の想定ケースは転籍、または在籍出向であっても給与の支給をB社に一本化した場合です。両社から給与が出ている状態であれば、社会保険は二以上事業所勤務として、報酬を合算して標準報酬月額を決定し、保険料を各社で按分することになります。
あわせて読みたい二以上事業所勤務届|複数の事業所に勤務する役員・職員の社会保険手続き切替月のチェックリスト
- A社で最後に給与を支給する月を確認した
- A社で社会保険料を何月分まで控除済みか確認した
- A社に残る本人負担分社会保険料の金額を確認した
- A社分の社会保険料を、B社給与から回収するか本人から直接回収するか決めた
- 住民税をA社で何月分まで徴収するか確認した
- 給与所得者異動届出書を提出し、B社での特別徴収開始月を確認した
あわせて確認したい手続き
- 健康保険・厚生年金/A社で資格喪失届、B社で資格取得届
- 雇用保険/A社で資格喪失届、B社で資格取得届(同一グループでも法人が別なら必要)
- 年末調整/転籍ならA社の源泉徴収票をB社に提出し、B社で合算して年末調整
- 労働保険/年度更新にあたり、賃金総額を各社で正しく按分する
8. 切替月のチェックリスト
切替月の基本の流れは、①A社の給与を0円へ → ②A社の社会保険料の残額を確認 → ③B社で給与支給・必要な回収 → ④住民税をB社へ切替の4段階です。
実務では、A社とB社それぞれの給与明細を並べて確認し、社会保険料・住民税に重複や未回収がないかをチェックすると、切替時のミスを防ぎやすくなります。
よくある質問
給与計算上はそのような明細が出ます。ただし、実際には本人から回収できていない状態ですので、明細を出して終わりにせず、B社の給与から回収するか、本人からA社へ直接支払ってもらうかを決めて処理してください。A社の未回収額と、回収した額を必ず突き合わせます。
賃金からの控除は、法令に定めがある場合を除き、賃金控除に関する労使協定が必要です。「その他控除」で回収する場合は、労使協定の控除項目に含まれているかを確認し、本人にも事前に説明して同意を得ておいてください。
社会保険料は、資格を喪失した月(退職日の翌日が属する月)の分は徴収しません。たとえば8月31日退職であれば喪失日は9月1日となり、8月分までがA社、9月分からがB社です。8月30日退職であれば喪失日は8月31日となり、7月分までがA社の負担になります。日付の1日違いで1か月分ずれますので、資格喪失日から確認してください。
異動があった日の翌月10日までに、A社(旧特別徴収義務者)が市区町村へ提出するのが原則です。新しい勤務先で引き続き特別徴収を行う場合は、届出書の特別徴収継続の欄にB社の情報を記入します。
速やかに本人へ返金し、市区町村へも状況を連絡してください。年度の合計額が合わなくなりますので、どの月分をどちらの会社で徴収したかを整理したうえで、以降の徴収月を調整します。
切替月に2か月分の保険料が重なることがあります。本人の手取りが大きく減りますので、事前に説明し、必要であれば回収を分割することを検討してください。可能であれば、両社の徴収方法をそろえておくのが確実です。
その年にA社から支払われた給与も含めて、B社で合算して年末調整を行います。本人にA社の源泉徴収票をB社へ提出してもらってください。提出がないと、B社では年末調整ができません。
法人が別であれば、適用事業所も別です。A社で被保険者資格喪失届、B社で被保険者資格取得届が必要です。雇用保険も同様です。同一グループであることは手続きを省略できる理由になりません。
まとめ
- 切替月にずれるのは「控除する月」。給与の支給月と対象月が一致しなくなる
- 翌月控除の会社は、A社の給与0円でも前月分の社会保険料が残る
- 残額はB社の給与から回収するか本人から直接。金額を必ず一致させて管理する
- 賃金からの控除には労使協定が必要。事前の説明も忘れずに
- 住民税は給与所得者異動届出書で引き継ぐ。二重控除に注意
- 社会保険料の負担月は資格喪失日で決まる。退職日の1日違いで1か月分ずれる
- 健康保険・厚生年金・雇用保険の資格手続き、年末調整、労働保険の按分もセットで確認する
当法人では、複数の法人で事業を運営されている事業者様の給与計算・社会保険手続きを継続してお受けしています。支給会社を切り替える月は、事前に段取りを決めておけば事故は起きません。切替のご予定がある場合は、給与計算の締め日より前にご相談ください。
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静岡・神奈川・愛知を中心に、オンラインで全国に対応しています。「転籍で社会保険の手続きがどうなるか」「年末調整や賃金台帳をどう引き継ぐか」「雇用契約書を作り直す必要があるか」といったご相談を承っています。法人内の異動と転籍では手続きが変わるため、事前のご相談をおすすめします。
※この記事は、給与計算・社会保険実務の一般的な取扱いを整理したものです。実際の処理は、給与の締日・支払日、社会保険の資格取得日・喪失日、各社の社会保険料の徴収方法、住民税の異動時期等によって異なります。個別の事例については、社会保険労務士または年金事務所・市区町村にご確認ください。

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