就労支援事業会計とは?A型・B型・就労移行支援で必要な会計区分と運営上の注意点

この記事で分かること
就労支援事業会計の基本、福祉事業活動と生産活動の分け方、多機能型事業所の会計区分、共通経費の按分、必要な決算書類、賃金・工賃との関係、運営状況の確認に備える実務上のポイントをまとめています。

はじめに|就労支援事業では「通常の法人会計」だけでは足りない

就労継続支援A型・B型や就労移行支援では、障害福祉サービスとしての支援に加えて、製品販売、受託作業、清掃、農作業などの「生産活動」を行います。そのため、法人全体の決算書を作成するだけでなく、福祉サービスに関する収支と、生産活動に関する収支を分けて把握しなければなりません。

この区分が必要なのは、単なる会計上の形式ではありません。生産活動による収入から必要な経費を差し引き、利用者に支払う賃金・工賃の原資を適切に計算するためです。会計区分が不明確なままでは、工賃の算定根拠が説明できず、A型では生産活動収支の評価や経営改善の判断にも影響します。

重要ポイント
就労支援事業会計は、税務申告のためだけの会計ではなく、「生産活動の実態」と「利用者への賃金・工賃の支払い」を説明するための管理会計でもあります。

この記事の要点

  • A型・B型・就労移行支援は、就労支援事業会計の対象です。
  • 多機能型事業所では、同じ指定事業所内でもサービスごとに会計を分けます。
  • 福祉事業活動と生産活動を区分し、複数作業がある場合は原則として作業種別でも管理します。
  • 共通経費は合理的な基準で按分し、按分根拠を文書化して継続的に使用します。
  • 会計年度ごとに、就労支援事業に関する所定の計算書・明細書を作成します。
  • 運営状況の確認では、会計情報、取引先、収入、賃金・工賃の支払い状況等が確認対象となり得ます。

1. 就労支援事業会計の対象となるサービス

就労支援事業会計の適用対象は、次のとおりです。法人形態にかかわらず、対象となるサービスを実施する場合は、所定の会計区分と計算書類の作成が必要になります。

サービス適用主な留意点
就労継続支援A型必須雇用契約に基づく賃金を支払う。生産活動収支と利用者賃金総額の関係が特に重要。
就労継続支援B型必須生産活動収入から必要経費を控除した額を工賃として支払う。
就労移行支援必須生産活動に従事した利用者に対し、収入から必要経費を控除した額を工賃として支払う。
生活介護任意生産活動を行う場合、法人の選択により就労支援事業会計を適用できる。

社会福祉法人は社会福祉法人会計基準に基づき、それ以外の株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人等は、就労支援事業会計処理基準と各法人に適用される会計基準の双方を踏まえて処理します。

2. 就労支援事業で必要となる4段階の会計区分

会計を分ける順序は、次の4段階で整理すると分かりやすくなります。

段階区分する単位実務上の例
1就労支援事業とその他の事業就労B型と、共同生活援助・相談支援・法人本部等を分ける。
2指定事業所ごと同じ法人が複数の就労支援事業所を運営する場合、事業所ごとに分ける。
3サービスごと多機能型では、就労移行支援と就労B型などをサービスごとに分ける。
4福祉事業活動・生産活動・作業種別支援・給付費の会計と、製造・受託等の生産活動を分け、原則として作業種別でも管理する。

多機能型事業所の注意点
「指定番号が1つ」「同じ建物・同じ職員・同じ生産活動」であっても、就労移行支援と就労継続支援B型など、実施する就労支援サービスごとに会計区分を設ける必要があります。

なお、多種少額の作業が多数あり、作業種別ごとの区分が実務上困難な場合は、作業種別の区分を省略できる場合があります。ただし、単に管理が面倒という理由ではなく、作業実態と省略理由を説明できるようにしておくことが重要です。

3.「福祉事業活動」と「生産活動」は何が違うのか

項目福祉事業活動生産活動
活動の内容利用者への支援、給付費請求、事業所運営など、障害福祉サービスを提供するための活動。製品の製造・販売、受託作業、清掃、農業、施設外就労など、売上を得るための活動。
主な収入訓練等給付費、利用者負担金、寄附金等製品売上、商品売上、加工賃、清掃等の受託収入
主な費用基準人員の人件費、指定事業所の家賃、支援記録・請求事務等の費用材料費、利用者賃金・工賃、生産専用設備、配達費等

区分の基本は、「その収入・費用が、福祉サービスの提供に必要なのか、生産活動の売上を得るために必要なのか」です。名称ではなく、実際の使用目的・業務内容で判断します。

実務で迷いやすい経費の区分例

経費標準的な考え方
指定事業所の家賃・共益費訓練・作業室を含め、指定を受けた事業所は利用者支援の場であるため、原則として福祉事業活動費用。商品保管専用倉庫など、生産活動専用部分は生産活動費用。
水道光熱費生産活動によって増加する部分は生産活動費用。それ以外は福祉事業活動費用。測定できない場合は合理的に按分。
機械・備品・車両支援・事務用は福祉事業活動、生産設備・配達車両等は生産活動。双方で使う場合は按分。
携帯電話・パソコン支援記録、給付費請求、管理者等の業務用は福祉事業活動。受注・顧客管理・販売管理用は生産活動。
保険料施設賠償責任保険や指定事業所の火災保険は福祉事業活動。生産物賠償責任保険や生産設備の保険は生産活動。
利用者の健康診断等指定基準に基づく利用者の健康管理に必要な費用として、福祉事業活動費用。

誤解が多い点
作業室で製造や受託作業を行っているからといって、指定事業所の家賃を全額「生産活動費用」にするわけではありません。厚生労働省ガイドラインでは、指定事業所の家賃等は原則として福祉事業活動費用と整理されています。

4. 職員人件費はどちらに計上するのか

人件費の区分は、就労支援事業会計で特に判断を誤りやすい項目です。職員が作業場にいるかどうかだけではなく、「障害福祉サービスの報酬・加算で評価される人員か」「生産活動に専ら従事する追加人員か」で整理します。

職員の状況会計区分の目安
指定基準上の人員配置に含まれる職員福祉事業活動費用
基本報酬の人員配置や加算で評価される職員福祉事業活動費用
基準人員を超えて配置し、生産活動に専ら従事する職員(報酬・加算で評価されない者)生産活動費用
福祉事業活動と生産活動の双方に従事する職員勤務時間等の合理的な基準で按分
他事業所・他サービスを兼務する職員勤務時間、業務日誌等に基づき、事業・サービス間でも按分

実務上の証拠
勤務形態一覧表だけでなく、職務分掌、雇用契約書、シフト、業務日誌、作業予定表などから、誰がどの業務に何時間従事したか説明できる状態にしておくと、人件費の按分根拠が明確になります。

5. 共通経費は「合理的な基準」で按分する

一つの経費が複数の事業、サービス、福祉事業活動と生産活動、複数の作業種別にまたがる場合は、共通経費として按分します。按分方法は全国一律ではなく、事業の実態に合った合理的な基準を法人が定めます。

経費の例優先する按分基準の例
職員人件費勤務時間、業務従事時間
水道光熱費子メーター等の実測。困難な場合は床面積・設備使用時間等
車両費・燃料費運行記録簿の走行距離、使用回数
機械・リース料使用時間、使用台数、専用・共用の実態
修繕費・保険料修繕対象部分、対象資産の使用目的、床面積等
消耗品・委託費実際の消費額、発注内容、作業別の使用量
  • 按分基準を一覧にした「按分基準表」を作成する。
  • 運行記録簿、メーター記録、勤務時間集計等の根拠資料を保存する。
  • 利益を調整する目的で、年度ごとに都合よく基準を変更しない。
  • 変更する場合は、事業実態の変化など合理的な理由と変更日を記録する。

6. 会計年度ごとに作成する主な書類

社会福祉法人以外の法人は、法人全体の貸借対照表・損益計算書等とは別に、就労支援事業会計処理基準に基づく計算書・明細書を作成します。指定権者から求められた場合に提出できるよう、毎会計年度、決算時に作成しておく必要があります。

書類作成対象・役割
就労支援事業事業活動計算書(別紙1)就労支援事業全体の収支を示す。全ての法人が作成。
就労支援事業事業活動内訳表(別紙2)複数の指定事業所を運営する場合に、事業所ごとの内訳を示す。
就労支援事業別事業活動明細書(表1/多機能型は表5)指定事業所・サービスごとの生産活動収支を示す。
就労支援事業製造原価明細書・販管費明細書(表2・3/多機能型は表6・7)製造業務と販売業務の費用を分けて示す。
就労支援事業明細書(表4/多機能型は表8)一定の場合に、表2・3に代えて簡便的に費用明細を作成する。
その他の積立金明細表・積立資産明細表工賃変動積立金・設備等整備積立金等がある場合に作成。

簡便様式を使える場合
各指定事業所(多機能型は各就労支援サービス)の生産活動に係る年間売上高が5,000万円以下で、多種少額の生産活動等により製造業務と販売業務の区分が困難な場合は、製造原価明細書・販管費明細書に代えて「就労支援事業明細書」を作成できる場合があります。

月次管理から決算書類へつなげる

年度末にまとめて帳簿を組み替える方法では、サービス別・作業別の収支や共通経費の根拠が追えなくなりがちです。日々の仕訳段階から、補助科目や部門コードを使って「事業所」「サービス」「福祉・生産」「作業種別」を識別し、月次で生産活動収支を確認する運用が望まれます。

  • 会計ソフトに部門・補助科目を設定する。
  • 売上請求書、材料仕入、外注費、工賃支給額を作業別に集計する。
  • 月次で「生産活動収入 – 生産活動費用」を確認し、工賃原資と整合させる。
  • 決算前に棚卸を行い、未販売の商品・製品・仕掛品・原材料を確認する。

7. 生産活動収支と利用者賃金・工賃の関係

基本式
生産活動収入 – 生産活動に必要な経費 = 利用者に支払う賃金・工賃の原資

就労支援事業会計では、現預金の入出金だけではなく、売上は実現した時点、費用は発生した時点で計上する損益ベースで計算します。売掛金が未入金であることや、材料代をまだ支払っていないことだけで、収入・費用から除外するものではありません。

サービス賃金・工賃に関する基本的な考え方
就労継続支援A型生産活動収入から必要経費を控除した額が、利用者に支払う賃金総額以上となるようにする。賃金は原則として自立支援給付費を充てず、生産活動収入で賄う。
就労継続支援B型生産活動収入から必要経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払う。
就労移行支援生産活動に従事した利用者に、生産活動収入から必要経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払う。

原則として、生産活動に余剰金を残すのではなく、賃金・工賃として利用者に還元します。A型で生産活動収支が赤字となる場合には、経営改善計画の提出・改善が求められることがあります。

8. 決算時に見落としやすい3つの処理

(1)棚卸資産

期末に未販売の商品・製品、製造途中の仕掛品、未使用の原材料がある場合は、棚卸表を作成して資産計上します。購入時に全額を材料費・仕入として処理したままでは、当期の費用が過大となり、生産活動収支と工賃原資を正しく把握できません。

(2)積立金

一定の要件を満たす場合は、将来の工賃水準を補填する「工賃変動積立金」や、生産設備の更新等に備える「設備等整備積立金」を計上できます。積立て・取崩しには法人内部の決議、上限管理、同額の積立資産の計上、目的外使用の禁止などの条件があります。

(3)法人内部の取引

生産活動で作った製品を法人内の会議で使用した場合や、同一法人の別事業所から清掃・加工を受託した場合も、合理的な価格で内部収益・内部費用を計上します。法人全体の計算書では相殺しますが、事業別明細では生産活動の実績として表示します。

9. 運営状況の確認・運営指導に備えて整えておく資料

厚生労働省が令和7年度に示した「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」では、既存事業所の運営状況を把握する観点として、生産活動の実態、収入額・取引先、会計情報、賃金・工賃の支払い状況、A型の経営改善計画などが挙げられています。

そのため、決算書類だけでなく、数字の根拠をたどれる資料を一体的に整理しておくことが重要です。

確認項目準備しておきたい資料
会計区分勘定科目一覧、部門設定表、サービス別・作業別元帳、会計処理方針
生産活動の売上契約書、請負契約書、見積書、納品書、請求書、入金記録、取引先一覧
生産活動の経費材料・仕入・外注費の証憑、生産設備台帳、車両・通信機器等の用途資料
共通経費按分基準表、勤務時間集計、運行記録簿、床面積図、メーター記録
賃金・工賃賃金台帳・工賃支給台帳、支給規程、計算根拠、振込記録、利用者別明細
棚卸棚卸表、在庫一覧、評価方法、実地棚卸の記録
決算書類就労支援事業事業活動計算書、内訳表、事業活動明細書、原価・販管費明細書等

事前確認のコツ
計算書の合計額だけでなく、「この金額はどの請求書・作業・利用者・職員に対応するか」を説明できるか確認します。会計ソフトの元帳と、工賃台帳、請求書、勤務表、作業記録が相互に一致している状態が理想です。

10. よくある誤り

  • 多機能型事業所で、就労移行支援と就労B型の生産活動会計を一つにまとめている。
  • 指定事業所の家賃や全ての水道光熱費を、生産活動費用として処理している。
  • 基準人員・加算対象職員の人件費を、生産活動費用に計上している。
  • 共通経費を根拠なく50%ずつ分ける、又は年度ごとに按分率を変更している。
  • 期末棚卸を行わず、未販売の商品・製品・材料を全額費用処理している。
  • 法人全体の決算書はあるが、就労支援事業の所定の明細書を作成していない。
  • 工賃支給額と、生産活動収支の差額が説明できない。

事業所向けセルフチェックリスト

  • □ 指定事業所・サービス・福祉事業活動・生産活動の会計区分が設定されている。
  • □ 多機能型事業所では、就労支援サービスごとに収支を集計できる。
  • □ 複数の生産活動がある場合、作業種別の売上・経費を把握できる。
  • □ 基準人員・加算対象職員と、生産活動従事の追加職員を区分している。
  • □ 共通経費の按分基準表があり、根拠資料を保存している。
  • □ 指定事業所の家賃、水道光熱費、車両費等を使用実態に基づき区分している。
  • □ 工賃・賃金台帳と生産活動収支が整合している。
  • □ 年度末に棚卸を実施し、棚卸表を作成している。
  • □ 所定の就労支援事業計算書・明細書を毎年度作成している。
  • □ 請求書、契約書、運行記録、勤務時間等から数字の根拠を追跡できる。

セルフチェックの進め方

手順確認内容
1. 区分を可視化法人・事業所・サービス・福祉事業活動・生産活動・作業種別の区分図を作る。
2. 帳簿と証憑を照合総勘定元帳、請求書、契約書、工賃台帳、勤務表、運行記録等を突き合わせる。
3. 決算処理を再確認棚卸、未収・未払、減価償却、共通経費の按分、内部取引を確認する。
4. 不備を改善不足書類、誤った区分、按分根拠の不備を一覧化し、修正時期と担当者を決める。

まとめ

就労支援事業会計で最も大切なのは、単に様式を作成することではなく、福祉サービスの費用と生産活動の費用を実態に沿って区分し、利用者に支払う賃金・工賃の根拠を明確にすることです。特に、多機能型事業所のサービス別区分、人件費の判定、家賃・水道光熱費等の扱い、共通経費の按分、棚卸は、運用の誤りが生じやすいポイントです。

日々の会計処理から部門・補助科目を整え、毎月の生産活動収支を確認する仕組みを作っておけば、決算時の負担を軽減できるだけでなく、運営状況の確認や運営指導の際にも、会計の適正性を説明しやすくなります。

当事務所での対応例
就労支援事業会計に関する会計区分・必要書類の整理、按分基準表の確認、運営指導前の書類点検等について、顧問税理士等と連携しながら支援します。個別の税務判断・税務申告は、税理士にご確認ください。

主な参考資料

  • 厚生労働省「就労支援事業会計の運用ガイドライン」(令和3年度障害者総合福祉推進事業)
  • 厚生労働省「就労支援等の事業に関する会計処理の取扱いについて」(平成25年改正)
  • 厚生労働省「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」(令和7年度)
  • 厚生労働省「生産活動シート 記入方法と確認点(解説資料)」

※本記事は令和8年7月時点の公表資料に基づく一般的な解説です。自治体ごとの取扱い、法人形態、事業内容、会計方針により個別判断が必要となる場合があります。