就労支援事業会計の運用ガイドライン|生産活動と福祉事業活動の区分・共通経費の按分・積立金

就労支援事業会計の運用|福祉事業活動と生産活動の区分・按分・積立金

就労支援事業会計の運用ガイドラインは、厚生労働省の障害者総合福祉推進事業として作成されたものです。就労移行支援、就労継続支援A型・B型が対象で、会計区分や作成が義務づけられている会計書類が示されています。福祉事業活動と生産活動を区分して整理する考え方が基本になります。

  • 対象は就労移行支援と就労継続支援A型・B型
  • 会計区分と作成すべき会計書類が定められている
  • 福祉事業活動と生産活動を区分して処理する

この記事で分かること

厚生労働省の障害者総合福祉推進事業として作成された「就労支援事業会計の運用ガイドライン」に沿って、就労支援事業会計の対象事業と会計区分、作成が義務づけられている会計書類、福祉事業活動と生産活動の収入・費用の分け方、人件費の判定手順、共通経費の按分基準、利用者賃金・工賃への配分と価格設定、工賃変動積立金と設備等整備積立金の限度額までを整理します。

はじめに

就労支援事業では、生産活動に係る会計と、それ以外の活動(福祉事業活動)に係る会計を区分することが定められています。ところが実務では、同じ費目であっても法人によって区分が分かれてきました。地代家賃や水道光熱費、減価償却費を生産活動に入れる法人、福祉事業活動に入れる法人、共通経費として按分する法人が混在していたという調査結果があります。

区分が分かれると、同じ収支状況でも、ある費目をどちらに入れるかで生産活動収支が黒字にも赤字にもなり得ます。これでは、本来把握したい生産活動収支の健全性を示すデータになりません。この問題を小さくするために作られたのが「就労支援事業会計の運用ガイドライン」です。この記事では、そのガイドラインが示している判断の順序と処理例を、実務で使える形に整理します。

この記事のポイント

    • 就労支援事業会計の対象は就労継続支援A型・B型・就労移行支援。生産活動を行う生活介護は法人の選択で適用できる
    • 会計区分は「指定事業所ごと」「就労支援事業ごと」「福祉事業活動と生産活動」「作業種別ごと」の4段階
    • 人件費は、生産活動に専ら従事するか、人員配置基準内か、報酬・加算で評価されているかの順に判定する
    • 指定を受けた事業所の家賃や減価償却費は福祉事業活動費用。専ら生産活動に使う倉庫などは生産活動費用
    • 共通経費は合理的な基準で按分し、按分基準表を作って継続して同じ基準を使う
    • 生産活動の余剰金は原則として賃金・工賃に配分する。積立金は2種類に限られ、限度額が決まっている
図解1会計区分は4段階
1 事業を分ける就労支援事業と、その他の事業(本部・他の障害福祉事業など)を区分する
2 事業所ごとに分ける指定事業所ごとに経理を区分する。多機能型はさらに就労支援事業ごとに区分する
3 活動を分ける福祉事業活動と生産活動を区分する。ここが就労支援事業会計の中心
4 作業種別に分ける同一事業所で複数の生産活動を行う場合は、原則として作業種別ごとに区分する
※多種少額の生産活動を行うなどの理由で作業種別ごとの区分が困難な場合は、4の区分を省略できます。

1. ガイドラインが作られた背景

就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型(以下「就労支援事業」)の会計処理は、社会福祉法人は社会福祉法人会計基準により、社会福祉法人以外の法人は就労支援事業会計処理基準により行うこととされています。いずれも、生産活動に係る会計とその他の活動に係る会計を区分すべきことが定められています。

実務上の問題として、生産活動に区分すべき経費か、福祉事業活動に区分すべき経費かの判断基準に悩むケースが多いという声が挙げられてきました。調査では、地代家賃・水道光熱費・減価償却費といった同じ費目でも、生産活動に区分する法人、福祉事業活動に区分する法人、共通経費として按分する法人に分かれる現状が確認されています。

この差は、単なる帳簿上の違いにとどまりません。就労継続支援A型では、生産活動収支が赤字の場合に経営改善計画を提出し、収支の改善に努めることが求められます。しかし区分の仕方が法人ごとに違えば、同じ収支状況でも黒字になる法人と赤字になる法人に分かれてしまいます。会計処理の運用上の取扱いを示して一定程度の統一を図る必要がある、というのがガイドライン作成の出発点です。

もう一つの背景が、作成すべき会計書類が作成されていない現状です。社会福祉法人会計基準および就労支援事業会計処理基準では作成すべき書類が明示されていますが、調査では、法人の種別によって差はあるものの、作成していない法人が多数見受けられたとされています。

ガイドラインは、こうした状況を踏まえて、①各法人での会計判断の円滑化・均質化、②実地指導時における指定権者と法人の認識のずれの解消、③会計基準と作成すべき会計書類の再確認、④正しい会計処理による公平・公正な事業評価、という方向性を掲げています。A型の基本報酬に用いられるスコア方式で生産活動収支が評価される以上、区分の統一は報酬の公平性にも関わる、という位置づけです。

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2. 対象となる事業と4段階の会計区分

就労支援事業会計の対象となるのは、就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労移行支援です。これらに加えて、生産活動を実施している生活介護は、法人の選択により就労支援事業会計を適用できます。

会計区分は4段階です。まず就労支援事業とその他の事業を区分し、次に指定事業所ごとに区分します。そのうえで福祉事業活動と生産活動を区分し、さらに同一事業所で複数の生産活動を行う場合は、原則として作業種別ごとに区分します。

多機能型事業所は1つの指定事業所として扱われますが、実施する就労支援事業ごとにも会計区分を設けなければなりません。たとえば多機能型で就労継続支援A型と就労移行支援を行う場合、A型と就労移行支援のそれぞれについて、福祉事業活動と生産活動、さらに作業種別の区分を設けることになります。

なお、多種少額の生産活動を行うなどの理由により作業種別ごとに区分することが困難な場合は、作業種別ごとの区分を省略できます。

3. 作成が義務づけられている会計書類

社会福祉法人以外の法人は、就労支援事業会計処理基準により次の書類を作成することが義務づけられており、指定権者から求めがあった場合には提出が必要です。法人全体の貸借対照表や損益計算書とは別に、これらを作成する必要がある点に注意してください。

図解2社会福祉法人以外の法人が作成する書類

全体の計算書(別紙)

  • 就労支援事業事業活動計算書(別紙1)/就労支援事業全体の計算書。すべての法人が作成
  • 就労支援事業事業活動内訳表(別紙2)/指定事業所ごとの損益の内訳表。複数の指定事業所を運営する法人のみ作成
  • その他の積立金明細表(別紙3)・その他の積立資産明細表(別紙4)/積立金・積立資産を計上している法人が作成

事業所ごとの明細書(表)

  • 就労支援事業別事業活動明細書(表1)/1つの指定事業所の生産活動に係る計算書。全ての法人が事業所ごとに作成
  • 就労支援事業製造原価明細書(表2)+就労支援事業販管費明細書(表3)/製造業務と販売業務に分けて費用を集計する場合
  • 就労支援事業明細書(表4)/製造業務と販売業務を区分しない簡便な様式
※多機能型事業所の場合は、表1〜表4に代えて表5〜表8を使います。表2+表3か表4のいずれかを、指定事業所ごとに作成します。

表2・表3ではなく表4だけでよいのは、生産活動に係る年間売上高が5,000万円以下であって、多種少額の生産活動を行うなどの理由により、製造業務と販売業務に係る費用を区分することが困難な場合です。表4は製造業務と販売業務を区分しないため、会計処理は簡便になります。

なお、書類の名称は各法人が準拠する会計基準により変更できます。就労支援事業損益計算書、就労支援事業別損益明細書といった名称でも差し支えありません。社会福祉法人は社会福祉法人会計基準により、拠点区分およびサービス区分という単位で事業活動計算書と附属明細書を作成します。

4. 収入の区分|給付費と生産活動収入

収入は、福祉事業活動により生じた収入と、生産活動により生じた収入に分けます。国保連からの自立支援給付費、利用者からの本人負担金や日用品等の実費負担金、寄附金として受領した額、職員からの給食代や自動販売機収入などの雑収益は福祉事業活動収入です。

生産活動収入は、生産活動により生じた収入です。パンやクッキーなどの製品の販売収入、仕入れた商品の販売収入、下請け作業による加工賃収入、清掃などの受託収入が該当します。

図解3収入と費用の区分

福祉事業活動

  • 国保連からの自立支援給付費
  • 利用者からの本人負担金、日用品等の実費負担金
  • 寄附金として受領した額
  • 職員からの給食代、自動販売機収入などの雑収益
  • 費用/利用者の支援に必要な費用、事業の運営事務に必要な費用

生産活動

  • 製品の販売収入(パン・クッキーなど)
  • 仕入れた商品の販売収入
  • 下請け作業による加工賃収入
  • 清掃などの受託収入
  • 費用/生産活動に直接必要な費用
※障害者雇用調整金・報奨金、特定求職者雇用開発助成金等は、生産活動により生じた収入とは言いがたく、福祉事業活動収入に区分するのが通例とされています。

費用の考え方も同じです。福祉事業活動収入を得るために必要となる経費は福祉事業活動費用、生産活動収入を得るために必要となる経費は生産活動費用です。1つの事業所内で生じた経費をどちらに区分するかで迷う場面は多いため、次の章から具体的に見ていきます。

5. 人件費の区分|3つの質問で判定する

人件費(労務費)は、福祉事業活動収入を得るために必要な人員か、生産活動収入を得るために必要な人員かで区分します。具体的には、生産活動に従事しない職員、指定基準に定める人員配置基準内の職員、報酬・加算で評価される職員は福祉事業活動費用として処理し、それ以外の職員を生産活動費用として処理します。

図解4人件費はこの順番で判定する
質問1 生産活動に専ら従事する職員かいいえ → 福祉事業活動費用
質問2 人員配置基準内の職員かはい → 福祉事業活動費用
質問3 報酬・加算で評価されている職員かはい → 福祉事業活動費用
3つとも該当しなければ生産活動費用(就労支援事業指導員等給与など)として処理する
※生産活動と福祉事業活動の両方に従事している場合や、他の事業所と兼務している場合は、法人で合理的な基準に基づき決定した按分方法により按分して費用計上します。

ここでいう「報酬・加算で評価されている職員」とは、次の職員を指します。1つは、就労継続支援A型またはB型において、手厚い就労支援体制(「7.5:1」以上)をとってサービス費(Ⅰ)(B型はサービス費(Ⅲ)を含む)により報酬算定している場合の、当該支援体制の人員基準内の職員です。もう1つは、A型の賃金向上達成指導員配置加算やB型の目標工賃達成指導員配置加算の対象としている職員です。

実務では、この判定を職員名簿の横に1列足して整理しておくと迷いません。指定基準で必要な人員として届け出ている職員は福祉事業活動、それを超えて生産活動に専従している職員は生産活動、という区分が基本になります。

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6. 人件費以外の経費の区分

人件費以外の経費についても、ガイドラインは代表的な費目の判定と考え方を示しています。法人が行う生産活動の業種・業態によりさまざまな経費が想定されるため、最終的には各法人の取引の実態に即した合理的な区分によることになりますが、次の考え方が出発点になります。

図解5代表的な費目の区分

福祉事業活動費用として処理

  • 指定を受けた事業所(訓練・作業室を含む)の家賃、共益費等
  • 指定を受けた事業所(建物)に係る減価償却費、修繕費、損害保険料、保守料等
  • 利用者の支援や事務運営に必要な器具・備品等の減価償却費
  • 利用者の健康診断・予防接種の費用

生産活動費用として処理

  • 商品・製品保管専用の倉庫の賃借料など、専ら生産活動に要する費用
  • 専ら生産活動に使う倉庫に係る減価償却費等
  • 生産活動に要する器具・備品等の減価償却費
  • 生産活動を行うことにより増加する部分の水道光熱費
※職員の健康診断費用等は、その職員の人件費の区分に応じて処理します。どちらの区分にも属する経費は、共通経費として按分計上します。

家賃や減価償却費の考え方は共通しています。指定を受ける事業所は指定基準に定める設備基準を満たす必要があり、訓練・作業室を含めて利用者支援の場と考えられるため、その事業所に係る家賃や減価償却費は福祉事業活動費用に計上します。一方、商品・製品保管専用の倉庫のように、専ら生産活動に要するものは生産活動費用です。

器具・備品や機械装置、車両運搬具の減価償却費は、その固定資産の使用実態により区分を決定します。どちらの区分にも属するのであれば共通経費として按分します。水道光熱費は、たとえばガスを生産活動でしか使用しない場合はガス代の全額を生産活動費用とするなど、使用実態により生産活動で増加する部分を特定します。特定が難しい場合は共通経費として按分します。

ガイドラインは、判断に迷いやすい費目について具体例も挙げています。車両関係の経費(ガソリン代、車検代、自動車保険料等)は、利用者の送迎用車両は福祉事業活動費用、配達・営業活動などの生産活動用車両は生産活動費用です。携帯電話代等の通信費は、管理者やサービス管理責任者など利用者の支援者用は福祉事業活動費用、配達・営業職員用は生産活動費用です。損害保険料は、指定事業所(建物)の火災保険や施設賠償責任保険は福祉事業活動費用、生産物賠償責任保険や生産活動用の機械保険は生産活動費用です。

パソコンやタブレットのリース料も同じ考え方です。給付費請求・サービス提供記録・会計管理などの事務用は福祉事業活動費用、売上管理・顧客管理・入出荷管理などの生産活動用は生産活動費用に区分します。複数台のリース料であれば、1台あたりのリース料を算出して、用途ごとにそれぞれの台数分を計上します。

7. 共通経費の按分と按分基準表

共通経費は、複数の事業間(多機能型として複数事業を行う場合を含む)、福祉事業活動と生産活動の間、作業種別の間、製造原価と販管費の間で発生します。共通経費は、合理的な基準に基づき適正に按分処理をする必要があります。按分方法は一律に定められるものではなく、各法人が事業の実態に応じて決定し、明確かつ適正な賃金・工賃の算出をするための基準として活用します。

図解6共通経費を按分する順番
1 他の事業との共通経費かはい → 事業ごとに按分する
2 福祉事業活動と生産活動の共通経費かはい → 両者に按分する。いいえ → どちらかに区分する
3 他の作業種との共通経費かはい → 作業種ごとに按分する
4 製造原価と販管費の共通経費かはい → 製造原価と販管費に按分する
※3は多種少額の生産活動を行うなどの理由で困難な場合、4は年間売上高5,000万円以下でかつ区分が困難な場合に、それぞれ省略できます。

ガイドラインは、想定される勘定科目ごとに按分方法の原則と、原則が困難な場合の代替案を示しています。実務では、この一覧をそのまま自事業所の按分基準表のたたき台として使うのが早道です。

図解7主な勘定科目の按分方法(原則/原則が困難な場合)

人件費・労務費/事業費・事務費

  • 職員給料、賞与、法定福利費など/勤務時間割合。困難な場合は職種別人員配置割合、届出人員割合、延利用者数割合
  • 給食費/実際食数割合。困難な場合は延利用者数割合、収入割合
  • 福利厚生費、職員被服費/給与費割合。困難な場合は延利用者数割合
  • 旅費交通費、通信運搬費、諸会費、雑費、渉外費/延利用者数割合、職種別人員配置割合、給与費割合
  • 消耗器具備品費、事務消耗品費、広報費/消費金額。困難な場合は延利用者数割合

設備・車両・その他

  • 水道光熱費/メーター等による測定割合。困難な場合は建物床面積割合
  • 修繕費/建物修繕は当該修繕部分、それ以外は事業個別費。困難な場合は建物床面積割合
  • 車両費・燃料費/使用高割合(距離数等)。困難な場合は送迎利用者数割合、延利用者数割合
  • 賃借料/使用割合。困難な場合は建物床面積割合
  • 減価償却費/建物・構築物等は建物床面積割合、車両運搬具・機械装置等は使用高割合、その他は延利用者数割合
  • 会議費/会議内容による事業個別費。困難な場合は延利用者数割合
※1つの就労支援事業所内で福祉事業活動費用と生産活動費用を按分する場合には、延利用者数割合や職種別人員配置割合などの適用はない点に留意してください。上表は勘定科目例であり、これによりがたい場合は実態に即した合理的な按分方法によって差し支えありません。

按分で必ず押さえておきたいのが、基準を文書にしておくことです。継続して採用している共通経費の按分基準を実地指導の際にも提示できるよう、按分基準表を作成してください。また、利益操作を防止する観点等から、一度採用した按分基準は継続性の原則にしたがい、合理的な理由がない限りみだりに変更してはならないとされています。

按分の具体例として、ガイドラインは自動車を挙げています。農作物や農機具の輸送にしか使わない軽トラックは、生産活動である農業でしか使用しないため共通経費に該当せず、関連して発生する経費は100%が生産活動費用です。一方、利用者の送迎にも商品配達にも使うバンは共通経費に該当し、運行記録簿に記録した走行距離をもとに按分することが考えられます。年間で送迎2,500km、商品配達7,500kmであれば、福祉事業活動費用25%、生産活動費用75%という配分になります。

8. 賃金・工賃への配分と販売価格の設定

指定基準では、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額を、利用者に賃金または工賃として支払わなければならないとされています。就労継続支援A型では、その額が利用者に支払う賃金の総額以上となるようにしなければならず、賃金の支払いに要する額は、原則として自立支援給付をもって充ててはならないとされています(災害その他やむを得ない理由がある場合を除く)。B型、就労移行支援、生産活動に従事する生活介護についても、同様に工賃として支払う旨が定められています。

つまり、生産活動により余剰金が生じる場合は、原則としてすべて賃金・工賃として支払うことになるため、生産活動に係る余剰金は原則として生じません。例外は次章の積立金です。なお、ここでいう生産活動収入および生産活動に係る経費は、現預金の収支ではなく、収入は実現主義、経費は発生主義に基づく損益ベースで計上される点に留意してください。

余剰金が生じない前提で運営する以上、価格設定と月次の損益把握が欠かせません。ガイドラインは、①コスト構造を把握して損益分岐点を算出し販売価格を設定する、②年度ごとの事業計画と予算を作成する、③月次決算により損益状況を早期に把握し対策を講じる、という3つの取り組みを挙げています。

図解8販売価格の考え方(パンを製造・販売する場合)
前提年間200日営業、1日50個生産。年間10,000個。製造原価は1個50円、販管費は年100,000円
必要経費の合計製造原価500,000円 + 販管費100,000円 = 600,000円
損益分岐点600,000円 ÷ 10,000個 = 1個60円
1個110円で売ると110円 - 60円 = 50円。50円 × 10,000個 = 500,000円を賃金総額に反映できる
※上記の製造原価および販管費には、利用者の賃金は含めずに計算します。原則としてこの差額がなくなるように、目標賃金額合計を踏まえた1人当たりの賃金額を設定し、実際の販売価格を決めます。厳密に損益分岐点を求めるには、経費を変動費と固定費に区分し、販売数量の目標も設定します。

どれだけ生産活動に力を入れても、売れば売るほど赤字になる価格設定では意味がありません。まず、いくらの販売価格にすれば利益が出るのかを把握することが出発点になります。とくに就労継続支援A型は生産活動において赤字を生じさせてはならないとされているため、経営管理は重要な課題です。生産活動収支が赤字の場合、A型事業は経営改善計画書の提出が必要です。

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9. 積立金|工賃変動積立金と設備等整備積立金

就労支援事業では、原則として剰余金は発生しません。ただし、将来にわたって安定的に賃金・工賃を支給する目的や、安定的かつ円滑に就労支援事業を継続する目的で、一定の条件を満たす場合には、就労支援事業活動増減差額から次の2種類の積立金を計上できます。積立金を積み立てるには理事会等の議決が必要で、取り崩す場合も同様の手続きが必要です。

図解92種類の積立金と限度額

工賃変動積立金

  • 目的/将来の一定の賃金・工賃水準を下回った場合に、賃金・工賃を補填することに備える
  • 各年度の積立限度/過去3年間の平均賃金・工賃の10%以内
  • 積立上限額/過去3年間の平均賃金・工賃の50%以内
  • 取崩し/保障すべき一定の工賃水準(天災等により工賃が大幅に減少した年度を除く、過去3年間の最低工賃)を下回った年度に取り崩し、補填した工賃を利用者に支給する

設備等整備積立金

  • 目的/生産活動に要する設備等の更新、または新たな業種への展開のための設備等の導入に備える
  • 各年度の積立限度/就労支援事業収入の10%以内
  • 積立上限額/就労支援事業資産の取得価額の75%以内
  • 取崩し/生産活動に要する設備等の更新、新たな生産活動への展開のための設備等を導入した場合に取り崩す
※その他の目的のために取り崩して流用することは認められません。ただし、就労支援事業に伴う自立支援給付費収入の受取時期が2か月以上遅れる場合に限り、一時繰替使用ができます。その場合も自立支援給付費収入により必ず補填しなければなりません。

積立てにあたっては、次の点に注意してください。積立金は、社会福祉法人以外の法人であれば就労支援事業活動計算書(別紙1)の当期末繰越活動増減差額に、その他の積立金取崩額を加算した額の範囲内で計上します。計上時期は、就労支援事業活動増減差額が生じた年度の計算書類に反映させます。計算書類の承認を決議する理事会等を開催する年度ではありません。

また、積立金は、当該年度の利用者賃金および利用者工賃の支払額が、前年度の支払い実績額を下回らない場合に限り計上できます。工賃を下げて積立てに回すことはできない、という趣旨です。積立金を計上する場合は、同額の積立資産(積立金の使用目的に充てる財源を確保するために積み立てられる現預金等で、固定資産に区分されるもの)を計上しなければなりません。

10. 製造原価と販管費・棚卸資産・法人内部の取引

製品を製造して販売する生産活動では、製造業務と販売業務を明確に区分し、それぞれに係る経費を「製造原価」と「販管費」に区分するのが原則です。たとえば、製造業務に携わる利用者の賃金・工賃は製造原価に、販売業務に携わる利用者の賃金・工賃は販管費に区分します(共通経費がある場合は按分します)。製品の製造を伴わない生産活動の場合は、製造業務がないため、利用者の賃金・工賃も含めてすべて販管費に計上します。

例外もあります。各指定事業所ごと(多機能型事業所は各就労支援事業ごと)の生産活動に係る年間売上高が5,000万円以下で、多種少額の生産活動を行うなどの理由により製造業務と販売業務に係る費用を区分することが困難な場合は、製造原価と販管費の区分は不要です。

棚卸資産にも注意が必要です。商品や製品などの棚卸資産は、販売等をした時に費用として処理します。したがって、期末時点でまだ販売等していない製品や商品がある場合は資産として計上しなければならず、期中に費用計上している場合は、その費用を除外する決算整理が必要です。期末には在庫を確認して棚卸表を作成し、実地指導の際に提示できるようにしておきます。

図解10棚卸資産の4種類

仕入れたもの・作ったもの

  • 商品/他から仕入れたものを加工せずに販売するもの
  • 製品/自社で製造して販売するもの

製造の途中にあるもの

  • 仕掛品/製品製造のために現に仕掛中のもの
  • 原材料/製品製造の目的で消費される物品で、消費されていないもの
※評価方法(単価の決定方法)には、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、売価還元法、最終仕入原価法があります。

法人内部の生産活動も、生産活動収入として計上します。生産活動でつくった商品や製品を法人内部で消費する場合や、法人内部の清掃活動等を生産活動として行う場合も同じです。ただし、内部間の取引価格を過大または過小に設定することは認められません。外部へ販売する金額と同じ価格に設定する、仮にその業務を法人外部へ委託するとした場合の価格を参考にするなど、内部の取引設定価格に合理性があることが必要です。

同一法人内の他の就労支援事業へ加工を委託した場合は、その加工費を「うち内部外注加工費」としてカッコ書きで再掲します。消費税を納税している法人は、内部取引が消費税の課税対象とならない点に留意してください。また、法人全体の計算書類では内部取引を相殺消去して表示しますが、就労支援事業別事業活動明細書では、それぞれの生産活動収入および生産活動費用に含めて表示します。

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よくある質問

Q
生産活動を行う生活介護でも、就労支援事業会計を適用しなければなりませんか。
A

強制適用ではありません。就労支援事業会計の対象事業は就労継続支援A型・B型・就労移行支援で、生産活動を実施している生活介護は、法人の選択により適用することができるとされています。

Q
事業所の家賃は、生産活動費用に入れてもよいですか。
A

指定を受けた事業所(訓練・作業室を含む)の家賃や共益費等は、福祉事業活動費用として処理します。指定を受ける事業所は設備基準を満たす必要があり、訓練・作業室を含めて利用者支援の場と考えられるためです。商品・製品保管専用の倉庫の賃借料など、専ら生産活動に要する費用は生産活動費用に区分します。

Q
目標工賃達成指導員の人件費は、どちらに区分しますか。
A

報酬・加算で評価されている職員にあたるため、福祉事業活動費用として処理します。就労継続支援B型の目標工賃達成指導員配置加算の対象としている職員、A型の賃金向上達成指導員配置加算の対象としている職員は、いずれもこれに該当します。

Q
利用者の健康診断の費用は、生産活動費用に入りますか。
A

利用者の健康診断費用等は福祉事業活動費用として処理します。利用者の健康保持のための適切な措置を講じることは指定基準に定められており、利用者支援に必要な経費と考えられるためです。職員の健康診断費用等は、その職員の人件費の区分に応じて判定します。

Q
按分の基準は、毎年見直してもよいですか。
A

利益操作を防止する観点等から、一度採用した按分基準は継続性の原則にしたがい、合理的な理由がない限りみだりに変更してはならないとされています。継続して採用している基準を実地指導の際に提示できるよう、按分基準表を作成しておいてください。

Q
製造原価明細書と販管費明細書は、必ず作らなければなりませんか。
A

生産活動に係る年間売上高が5,000万円以下で、多種少額の生産活動を行うなどの理由により、製造業務と販売業務に係る費用を区分することが困難なときです。この場合は、就労支援事業製造原価明細書(表2)と就労支援事業販管費明細書(表3)に代えて、就労支援事業明細書(表4)を作成すれば足ります。

Q
工賃を前年より下げて、その分を積立金に回すことはできますか。
A

できません。積立金は、当該年度の利用者賃金および利用者工賃の支払額が、前年度の支払い実績額を下回らない場合に限り計上できるとされています。

Q
法人内部で使うために作った製品も、売上に計上するのですか。
A

生産活動収入として計上します。法人内部で消費する場合や、法人内部の清掃活動等を生産活動として行う場合も同じです。ただし内部の取引価格は、外部へ販売する金額と同じ価格にする、外部へ委託するとした場合の価格を参考にするなど、合理性のある設定であることが必要です。

まとめ

就労支援事業会計の中心は、福祉事業活動と生産活動を分けることです。収入は、給付費や本人負担金が福祉事業活動収入、製品や商品の販売収入・加工賃収入・受託収入が生産活動収入になります。費用は、利用者の支援や運営事務に必要なものが福祉事業活動費用、生産活動に直接必要なものが生産活動費用です。

迷いやすい人件費は、生産活動に専ら従事するか、人員配置基準内か、報酬・加算で評価されているかの順に見ていけば判定できます。家賃や減価償却費は、指定を受けた事業所に係るものは福祉事業活動費用、専ら生産活動に使う倉庫などは生産活動費用が基本です。どちらにも属するものは共通経費として按分し、按分基準表を作って継続して同じ基準を使います。

生産活動の余剰金は原則として賃金・工賃に配分します。例外である積立金は、工賃変動積立金と設備等整備積立金の2種類に限られ、それぞれ年度ごとの積立限度と上限額が決まっています。工賃を前年より下げて積立てに回すことはできません。まず、自事業所の按分基準表と月次の生産活動収支を整えるところから始めてください。

就労支援事業会計の区分と工賃設計をご支援します

行政書士法人 障害福祉リーガルパートナーズは、障害福祉サービスに専門特化した行政書士法人です。代表の永野将太は行政書士と社会保険労務士の資格を併せ持ち、指定申請だけでなく、人員配置の設計、就業規則や社会保険の手続き、処遇改善加算の取得までご相談いただけます。

静岡・神奈川・愛知を中心に、オンラインで全国対応しています。福祉事業活動と生産活動の区分、共通経費の按分基準の整理、生産活動収支と工賃の設計、運営指導に備えた書類の整備まで、実務に沿って一緒に確認します。生産活動が赤字で工賃が上がらないというご相談も承ります。

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主な参考資料

    • 令和3年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業「就労継続支援事業所における就労支援事業の評価と会計処理基準に則した適正な運用にかかる調査研究」/就労支援事業会計の運用ガイドライン

※本記事は、上記ガイドラインの記載に基づく一般的な整理です。会計基準および指定基準の具体的な取扱いは、改正や指定権者ごとの運用により変わることがあります。個別の会計処理の判断にあたっては、法人が準拠する会計基準および指定権者・顧問税理士等へ必ずご確認ください。

執筆者 永野将太(行政書士・社会保険労務士)
執筆者WRITER
永野 将太
行政書士法人 障害福祉リーガルパートナーズ 代表

障害福祉分野に専門特化し、行政書士・社会保険労務士の資格を活かして、指定申請・開業支援から、人員配置、加算・減算、処遇改善加算、運営指導対応、労務管理まで幅広く支援しています。

これまで5,000件を超える相談に対応。法令・通知・行政実務を踏まえながら、制度上の正しさだけでなく、実際の事業所運営まで見据えた実務的な情報発信を行っています。